第292話 一人一部屋あるので

 イビルハイエナの群れに狙われていたのは、十人ほどの集団だった。

 ……旅人、かな?


 この砂漠を長く旅していたのか、すでに疲労困憊と言った様子で、このハイエナの群れに襲いかかられては一溜りもないだろう。

 僕はすぐに公園を彼らの元へと飛ばした。


「一足先に行くわぁん!」


 まだ高度を下げる前に、ゴリちゃんが公園の端から飛び降りてしまう。

 普通の人なら死ぬ高さだけど、ゴリちゃんなら大丈夫だろう。下は砂だし。


 ゴリちゃんの登場に、旅人たちはもちろん、イビルハイエナたちも驚愕している。

 うん、当然の反応だよね。


 そのゴリちゃんがイビルハイエナの一匹を吹き飛ばすと、ハイエナたちは力の差を理解したらしく、すぐに逃走を図った。


「逃がしはしないわ!」

「うむ、全滅させるぞ」


 そこへセレンたち狩猟隊が襲いかかった。


 セレンが放った氷の雨が行く手を阻むと、セリウスくんが二匹同時にハイエナを仕留める。

 ノエルくんが投げた大盾が数匹を吹き飛ばし、ゴアテさんはハイエナの尻尾を掴んでぶん回しながら周囲のハイエナに叩きつけていく。


 遠くまで逃げてしまったハイエナには、フィリアさんの矢が襲い掛かる。


 そうしてものの数分で、僕たちはイビルハイエナの群れを全滅させたのだった。







「お前たちは一体……? それにあの空飛ぶ地面は……」


 突然、空から加勢に入ってきた僕たちに、彼女たちは呆然と立ち尽くしていた。


 きっとこの砂漠に生きる民なのだろう、褐色の肌が特徴的な人たちだ。

 砂漠の危険性は熟知しているはずなのに、それがどうしてこんな場所でイビルハイエナに襲われていたのかな……?


「詳しい話は後にして、とりあえずこっちにどうぞ」


 もはや立っているのも辛そうな彼らを、砂地に着陸させた公園へと案内する。

 井戸から汲んだ水を彼らに提供した。


「「「み、水だっ!」」」


 どうやらロクに水も飲めていなかったようで、凄い勢いで飛びつく。


「ごくごくごく……ぷはぁっ! なんて美味い水だっ!」

「ああっ、生き返る……っ!」

「幾らでもあるので好きなだけ飲んでください。頭から被ってもらってもいいから」


 そういうと、彼らは驚いたように、


「い、いや、この砂漠で水は貴重なものだ」

「貴殿らも水が必要だろうし、これ以上は……」

「あ、本当に幾らでもあるんですよ。ここに井戸があるので」


 僕はレバーを動かし、水をドバっと出してみた。


「「「えええええええええええっ!?」」」


 と大声で仰天してから、


「なぜこんな場所に井戸が!?」

「というか、そもそもこの謎の地面は何なのだ!?」

「まぁまぁ、詳しいことは後で説明するので、とりあえず水浴びでもしてください。今からもう何基か作るので」


 僕は井戸を新たに四基作り出した。


「「「ええええええええええええええええええっ!?」」」

「ほらほら、熱中症にならないよう、火照った身体を冷やして。水は出しっぱなしでいいですから」


 ギフトで作った井戸は、どんなに水を出しても枯れることはないのだ。


 さらに彼らは、しばらく食べ物もほとんど口にできていなかったらしい。


「これもどうぞ」

「なっ……た、食べ物まで恵んでくれるのか……っ?」


 持ってきていたお弁当を彼らに提供する。

 コークさんお手製で、当然みんな楽しみにしていたのだけれど、文句を言う人は一人もいなかった。


「「「……」」」


 ……羨ましそうにじぃっと見ている人が何人かいるけど。




「「「うめえええええええええええええええええっ!?」」」




 そうしてお腹を満たしてもらった後。

 完全に疲れ切った様子だったので、いったん休んでもらうことに。


「ホテルを建てたので、好きな部屋で休んでいいよ。一人一部屋あるので」

「「「何じゃこりゃあああああああああああああっ!?」」」

「「「ていうか、一体どこから現れた!?」」」


 お弁当を食べている間に設置しておいたのだ。


〈ホテル:宿泊・休憩用の施設。調整次第で多目的に使えるよ!〉


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