第293話 何一つ言ってる意味が分からないのだが
「あたしの名はマリベル。遅ればせながら、お礼を言わせてほしい。君たちのお陰で本当に助かった」
一団の代表者だとして、マリベルと名乗ったのは、背が高くて引き締まった身体つきの美女だった。
まだ二十歳かそこらの若い女性に見えるけれど、年齢にそぐわない貫禄がある。
男勝りな口調も相まって、雰囲気はどことなくフィリアさんに近い。
そんな彼女に合わせて、他の人たちも深々と頭を下げてくる。
「当然のことをしただけですよ。それより、体力の方はどう?」
「お陰ですっかり回復した。……にしても、信じられないほど心地の良いベッドだったな」
「それはよかった」
ホテルで休息したことで、元気になったみたいだ。
「……ところで、失礼だがそちらの代表は?」
「僕だよ。名前はルーク」
「君が?」
「うん。村長をやっているんだ」
「村長……」
こんな子供が? という顔をされてしまう。
どうせ僕は子供にしか見えないよ。
「村はもっと遠いところにあって、今日はこの公園に乗って砂漠に遊びに来たんだ」
「……何一つ言ってる意味が分からないのだが」
「そ、そうだよね……えーと、どこから説明したらいいのやら」
悩んでいると、横からミリアが割り込んできて、代わりに説明してくれた。
「この空飛ぶ公園も、一瞬で井戸やホテルと作り上げてしまうのも、すべてルーク様のギフトのお力なのです」
「ギフトの……?」
「そうです! そしてルーク様こそ、この世界のために神々が遣わされた存在っ! この地上に生きる人類が、いえ、ありとあらゆる生物が平伏すべきお方なのです……っ! そんなルーク様にお会いでき、命を救っていただけたというのは、もはや奇跡に他なりふがふがっ」
ミリアが何か意味不明なことを口走り始めたので、慌てて手で口を塞ぐ。
「い、今のは気にしなくていいよ。ミリアは時々、おかしくなっちゃうんだ、あはは……。それで、君たちはどこに向かっているところだったの?」
「うむ、実はだな……」
詳しく聞いてみると、どうやら彼女は、この砂漠の一帯を古くから治めているエンバラという国の女王様らしい。
「え? 女王様?」
それが一体なぜこんなところで魔物に襲われ、命を落としかけていたのか。
「……正確には、元女王と言うべきかもしれぬ。実の兄によって、国を奪われてしまったのだからな」
マリベル女王は悔しげに顔を顰めた。
「兄はその素行の悪さから王位継承権を剝奪され、王宮からも追放されていた。だがこの砂漠中の砂賊を統率して、我が国に攻め込んできたのだ」
砂賊というのは、この砂漠で略奪行為などを行う無法集団のことらしい。
山賊とか海賊の砂漠版だ。
王国軍も必死に応戦したそうだが、反逆者の兄が率いる砂賊軍の、卑劣な手を使うことを厭わない戦い方に圧され、ついには王宮を、そして国の中心であるオアシスを奪われてしまったという。
最後まで戦うことを誓っていたマリベル女王だけれど、側近たちに説得され、制圧直前に逃げ延びたそうだ。
必ず国を奪還してみせる。
その思いを胸に、追いかけてくる砂賊に幾度も捕まりそうになり、また魔物に襲われて仲間を失いながらも、過酷な砂漠を逃げ続けた。
けれど不運にもあのイビルハイエナの群れに遭遇し、ここまでかと死を覚悟したそのとき。
たまたま僕たちが近くを通りかかり、すんでのところで彼女たちを救出したのだった。
「その上、水や食料、そして寝床まで与えてくれた。君たちには感謝してもし切れない。身体も回復し、これならまだ旅を続けられそうだ」
「ちなみに、どこに向かっていたの?」
「この先に小さいがオアシスがあるのだ。王宮から逃れる際、どうしてもバラバラに成らざるを得なかったが、そこで落ち合うようあらかじめ決めておいたから、生きていれば集まってくるはず」
そこで彼らは来る祖国奪還に向けて、力を蓄えるつもりなのだという。
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