第399話 更生施設送り決定

 魔境の森縦断耐久レース前の予選として開催した、荒野縦断耐久レース。

 それもいよいよ、大詰めに差し掛かっていた。


 先頭集団はすでにUターン地点を回って、村に向かってきている。

 その人数は現在、十人だ。


「ディルさんとセリウスくんもいる。この集団はほぼ確実に、上位二十人に入りそうだね」


 勝負は次の第二集団だ。

 ここには全部で十三人いて、最低でも三人は次のレースに進めない。


「狩猟チームのランドくんもこの第二集団だ」


 ランドくんは最初期からの村人で、『槍技』のギフト持ち。

 もうすぐ十七歳になるところで、そろそろ結婚を、と考えていたところだったという。


 うーん、ランドくんも応援したいところだけど、やっぱりセリウスくんかなぁ。


「ん? なんか後方から、すごい勢いで追い上げてくる人が……」


 そのとき後ろの方から凄まじい砂煙を上げ、一気に第二集団に迫りつつある人物がいた。


「ははははははっ! このレース、『鉄人』のギフトを持つ儂のためにあると言っても過言ではないぞ!」


 ガンザスさんだ。

 マリベル女王の信頼するエンバラ王国のベテラン兵士で、確か年齢はもう五十を超えているはず。


「結婚してないんだっけ?」


 念のため村人鑑定で確認してみると、どうやら若い頃に離婚してしまったらしい。


「フィリアさん、バツイチでも構わないの?」

「問題はない。できれば子供が欲しいので、生殖機能に問題のない男性にしたいが、最近、父上が作った特殊なポーションを使えば大丈夫だろう」

「いつの間にそんなの作ってるの……」


 それを飲むと高齢男性でも、失われた生殖機能を一時的に取り戻すことができるらしい。


 ともあれ、そのガンザスさんが第二集団を追い抜いたことで、十三人が残る九人の枠を争うような形になった。


「あっ、先頭はもうゴールしそうだよ」


 二十人の枠に入りさえすれば順位は関係ないのだけれど、二人が先頭集団を抜け出していた。

 セリウスくんとディルさんだ。


 かつて村で行った大規模な雪合戦イベントで、最後まで戦い続けたという、実は因縁のある二人。

 今回のレースでも互いを最大のライバルとして認識しているのか、どちらも残る力を振り絞って全力疾走している。


「頑張れ!」

「どちらも負けるな!」

「ゴールはあと少しだ!」


 応援のために沿道に集まった大勢の村人たちが、彼らに声援を送っている。

 そして最後はほぼ同時にゴールラインに飛び込んだ。


「どっちが勝った!?」

「いや、分からなかった!」

「同時じゃないか!?」


 みんな騒いでいるけど、このレース、順位は関係ないからね?

 もちろんリプレイ映像を見たりなんてできないし、このレースでは勝ち負けは付けなかった。


「ハァハァハァ……ほ、本番では、負けないぞ……っ!」

「それは……こちらの……台詞……ぜぇぜぇ……」


 それからしばらくして、八人が団子状態でゴール。

 直後にガンザスさんもゴールに辿り着く。


「さて、残りは九人だけど……あれ?」


 続いてゴールに向かってきたのは、


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……やったぜっ……二十位以内に、ゴールだっ!」

「マンタさん……?」


 ゴールラインを走り抜けたところで、わざとらしく地面に倒れ込むマンタさん。

 そして仰向けのまま天に拳を突き上げてガッツポーズ。


「いや、もっと早い段階で脱落してたでしょ。ズルはダメだよ、ズルは」


 あとで調べたところ、途中でコースを外れたマンタさんは、先頭集団がゴールに近づいてくるタイミングを見計らって、さも自分も一緒に走って来たかのようにゴールに向かったらしい。


「マンタさんは失格ね。そして更生施設送り決定」

「俺が悪かったあああああああっ! だからあそこだけはやめてくれええええええっ!」

「ダメだよ。もういい歳でしょ? お父さんをいつまでも困らせるんじゃないよ」


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万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 九頭七尾(くずしちお) @kuzushichio

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