第398話 既婚者の参加はダメだよ
「魔境の森縦断耐久レース……?」
「うむ。読んで字のごとく、魔境の森を縦断するレースのことだ」
僕の村がある荒野の北に広がる魔境の森。
そこは多数の凶悪な魔物が棲息している危険地帯だ。
エルフたちは元々そこに住んでいたのだけれど、森のかなり浅い場所だった。
それでも魔物に襲われて、死者が出ることも少なくなかったという。
「それを縦断するって……距離だけでも三百キロ近くあって大変なのに……。結婚の前に死んじゃうでしょ?」
「もちろん相応の対策は行う。魔物に遭遇しないよう、魔物避けのアイテムの使用も許されている。それに森の奥地は本当に危険なため、できる限り迂回しつつ、比較的安全な場所を選んで走るのだ」
「なるほど」
そして最初に森を縦断して戻ってきた者が、晴れて結婚相手として選ばれるらしい。
「でも五百人も参加したら、少なくない数の死者が出るよ……。森に住んで慣れていたエルフたちならともかく、戦えない人も多いんだから」
「確かにそうだ」
「まずは別の方法で振るい落として、五百人を一気に二十人くらいにまで絞った方がいいと思うよ」
というわけで、一次審査と称して、あるレースを開催することにした。
それは――
「荒野縦断レースだ!」
この荒野を縦断するレースを行い、その先着二十名だけが次の魔境の森縦断レースに挑めるのだ。
村を出発して南下、荒野の入り口でUターンして、再び村に戻ってくるコースだ。
距離的にはだいたい百キロくらいにはなるだろう。
もちろん僕が設置した道路を使ってはいけない。
自力で走って往復しなければならないのだ。
「みんな押さないように! そこ、無理やり前に出ていかない! 百キロもあるんだから、前だろうと後ろだろうと、そんなに差はないから!」
スタート地点についた五百人の殺気立った男たちに、僕は必死に声を張り上げて呼びかける。
「ちょっと待って! 君はすでに結婚してるでしょ! 既婚者の参加はダメだよ!」
たまに参加要件を満たしていない人が交っていたりするので、そういう人を除外する必要もあった。
「そこのおじいちゃんも結婚してるでしょ!」
「その心配は要らぬ! この戦いで勝ったら、ばあさんと別れてフィリアちゃんと結婚するんじゃ!」
「いやダメだってば」
「は、放せええええええええっ!」
妻がいるはずの七十代のおじいちゃんも強引に排除する。
ていうか、その歳でこのレースに勝てるわけないでしょ。
「じゃあ、始めるよ! ……よーい、スタート!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
スタートの合図とともに、勢いよく駆け出す五百人の男たち。
「そんなペース、どう考えても持たないと思うんだけど……」
予想通り、数キロも走ると、どんどん脱落していった。
ちなみに僕はこのレースの様子を、フィリアさんと一緒に空飛ぶ公園に乗って上空から見ている。
「ぜぇぜぇぜぇ……く、くそっ……もう、限界、だ……俺、持久走は、苦手なんだよ……」
あっ、マンタさんがぶっ倒れた。
ていうか、苦手なのは持久走だけじゃないでしょ。
「先頭集団は三十人くらいか。ほとんどもう彼らに絞られたような感じだね」
驚くべきことに、彼らは最初からほぼペースが落ちることなく走り続けている。
その中にはもちろん、セリウスくんの姿もあった。
「って、ガイさんもいるし!」
エロ坊主のガイさんもこのレースに参加していたようだ。
ただ、お世辞にも持久走向きではない体格なので、すでにかなり辛そうだ。
「せ、拙僧は負けぬっ……必ずやエルフ美女と一夜を共にするのだっ……」
煩悩で必死に喰らいついているけど、しばらくすると先頭集団から引き離され始める。
「ぐう……無念……」
あっ、倒れちゃった。
ガイさんもここで脱落だ。
「……ガイよ……エルフ嫁は……俺に任せておけ……」
そんなガイさんを余所に、顔色一つ変えずに先頭集団を走り続けているのは、ガイさんと同じパーティに所属している狩人のディルさんだ。
この人、普段ほとんど喋らないから存在感が薄いけど、実はガイさんに負けず劣らずのむっつりスケベらしい。
「うーん、是が非でもセリウスくんには頑張ってもらいたいなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます