第397話 五百人はいるよ

「それで、フィリアさん。どうやって相手を決めるの?」

「うむ。実は我がエルフの里には、昔からつがいを決めるための伝統的な手順があるのだ」

「それはどんな?」


 いきなり婚活を始めると言い出したフィリアさん。

 どうやらその具体的な方法について、エルフの里ならではのものがあるらしい。


「まず女性側が婚活中だという宣言をすると、その女性を嫁に迎えたいと考えた男性たちが名乗りを上げる。ここで万一、誰も手を上げなければ、その時点で婚活は終了だ」


 実はそういうケースも少なくないという。

 宣言した女性が可哀想……と思ったけれど、そもそもエルフは若い期間が非常に長いので、何度も再チャレンジするのが当たり前だそうだ。


 人間とは比較にもならないくらい年齢差の激しい夫婦も多いそうで、そのため前回のチャレンジのときにはまだ生まれていなかった相手と、次のチャレンジで晴れて成立して結婚する、みたいなことも普通にあるのだとか。


「もし何人も手を上げた場合は、女性側が選ぶの?」

「いや、ある特別な儀式を行うのだ」

「特別な儀式?」

「うむ。その結果を持って、結婚相手が決まることになる」


 女性側には好きな相手を選ぶ権利はないらしい。


「そもそもエルフは恋愛感情に疎い種族だ。貴殿ら人族のように、意中の異性がいるということはまずない」

「そうなんだ。じゃあ、男性側も、好き嫌いで立候補するわけじゃないんだね」

「ああ。主に女性の条件を見て手を上げる。精神的に成熟し、身体が強く、思い切りのいい女性を求める男性が多い」

「な、なるほど……」


 強い女性が好まれるということらしい。


「エルフに限定して募集するの?」

「いや、せっかくこうして人族と共生させてもらっているのだ。そのつもりはない」


 よかった。

 セリウスくんにもチャンスがあるみたいだ。


「でも、めちゃくちゃたくさん応募が来ちゃうと思うよ?」

「そうだな……自分で言うのもなんだが、戦士長もしていたし、エルフの男たちからは人気がある方だと思う。少なくとも五人は立候補してくれるだろう」

「絶対そんなレベルじゃないって」

「む? そうか? 人族からも、少しは立候補がくるだろうか」


 どうやらフィリアさん、自分がどれだけ人気なのかを理解していないようだ。

 傍から見たら丸分かりなセリウスくんの思いにも、まったくピンときていないみたいだし。


 というわけで、フィリアさんの婚活宣言から数日後。

 彼女の新郎になりたいと立候補した男たちが、村の中央広場に集合していた。


「さて、どのくらい集まってくれただろうか? 十人くらいはいるだろうか? む? なんだ? 随分とざわざわしているが……」




「って、どれだけいるのだあああああああああああああっ!?」




 広場に溢れかえる男たちの姿を見た瞬間、フィリアさんが絶叫した。


「な、何だ、これは!? 百人以上はいるぞ!? い、いや、そんなはずはないっ……そうか、きっと見物客が……」

「見物客じゃないよ。そういう人たちは広場に入れないよう、ロープを張っておいたし。あと、百人どころじゃなくて、五百人はいるよ」

「ごごご、五百人!?」


 驚愕しているフィリアさんだけど、こっちとしてはむしろ予想通りだ。

 だからこの広場を会場に選んだのだし。


「っ、フィリアちゃんだ!」

「フィリアちゃんの登場だっ!」

「「「フィリア様ああああああああっ!! 結婚してくれええええええええっ!!」」」


 フィリアさんの登場に、大熱狂する男たち。


「ええと、特別な儀式っていうのが何か分からないけど、さすがにこの人数だと難しいんじゃないかな?」

「いや、できないことはない」

「そうなの?」

「うむ。その儀式というのが、〝魔境の森縦断耐久レース〟なのだ」


 魔境の森縦断耐久レース……?


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