第355話 憎き兵器をそう呼んでいるのだ

 大国の使者というプライドをかなぐり捨て、必死に嘆願してくるガイウスさん。


「ええと……とりあえず、見に行ってみてもいいですか? 力になれるかどうかは分からないですけど」

「っ……ほ、本当か!?」


 数日前の時点で、すでに王都の間近まで攻め込まれていたという。

 敵軍の勢いは強く、もはやいつまでもつか分からない状況らしい。


「回りくどいことしないで、直接そう言ってくれればよかったのに……」

「い、いや、噂では、貴殿はそもそも戦争というものを大いに嫌っていると聞いておったのだが……戦争に巻き込むような依頼を最初にしてしまうと、それこそ断られるのは間違いないと……」


 戦争が嫌いなのは間違いないけど……どうやら少し事実から捻じ曲がって伝わってしまっているらしい。

 だから他の国も事情を隠し、交流を求めてきたのか。


 自国に親しみをもってもらえれば、侵略で危機に陥った際、助けてくれるかもしれない、と。

 確かによく知らない遠い異国の戦争となれば、そこでどんな悲劇が起こっていようと、自分事とはとらえないのが人間というものだ。


「時間がないみたいだし、詳しい話は道中で聞きますね。まずは一番近いところまで瞬間移動で行きます」


 カイオン公爵領の西端。

 そこがローダ王国との国境になっているというので、使者団を連れてそこへ飛んだ。


「っ!? こんな場所まで一瞬で!?」

「ただ、この先は公園で飛んでいくしかないです」


 領地強奪スキルを使いつつ、村の領域内に入れながら進むしかなかった。

 いったん村の領域にさえできれば、瞬間移動で簡単に行き来が可能だ。


 僕が公園を作り出して空に舞い上がると、ガイウスさんはその場に尻もちをついた。


「本当に、空を飛んでいる……こんな真似ができれば、城壁など無視して都市に攻め込み放題ではないか……」


 すでに王都近くまで進軍を許しているということなので、できる限り急ぐしかない。

 三次元配置移動は、電車と遜色がない速度を出せる。


 東西に長く延びているローダ王国だけど、幸い王都は中心よりやや東側に位置しているという。


 そうして空を飛ぶこと、数時間。


「見えてきたぞ! 王都だ! っ……すでに、敵軍が……」


 遠くに都市が見えてきて、ガイウスさんが叫ぶ。

 街を取り囲む城壁が、敵の大軍に包囲されている。


「だが王都の城壁は、我が国で最も強固だっ! そう簡単には……なっ!? 城壁がっ……は、破壊されている……っ!?」


 ガイウスさんが悲鳴を上げた。

 城壁の一角が砕かれ、大きな穴が開いていたのである。


「なんだろう、あれ? 巨大な人みたいなものが……」


 その穴からそう遠くない位置に、見たことのない物体が置かれていた。


 人に似た形状をしてはいるものの、なんとなく生き物ではなさそうだ。

 鉄などの金属類でできてそうだし……。


「巨人兵……っ!」

「巨人兵?」

「帝国の快進撃を支えている、憎き兵器をそう呼んでいるのだ……っ!」


 ガイウスさんによると、帝国が古代遺跡から発掘し、復活させた超兵器、それがあの巨大な人型の正体だという。

 内部に人間が乗り込んで、操作することができるようで、腕部に仕込まれた砲から放たれる魔力の砲弾は、一撃で強固に閉じられた城門を一撃で粉砕するほどの威力を持つらしい。


 この話、どこかで聞いたことあるような……?


「もはや動く破城槌のようなものだ! あれによって、我が国の都市が悉く陥落させられたという……っ!」


 開いた城壁の穴へ、敵軍が一気に押し寄せていく。

 そうはさせまいと、ローダ王国の兵たちはすぐさま防衛に入るが、城壁を破られた衝撃からか、明らかに士気が低い。


 それでもどうにか敵軍の侵入を防いでいると、


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 巨人兵によって、城壁のまた別の箇所を破壊されてしまう。


「こ、このままでは……王都が……」


 絶望的な状況によろめくガイウスさん。


 それでも懸命に二つ目の穴を守ろうとするローダ王国の兵士たち。

 そんな彼らを蹴散らさんと、巨人兵が猛スピードで前進、自ら突っ込んでいった。

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