第354話 もっと早く言ってよ
ローダ王国王都。
人口十万人を超えるこの大都市に今、未曽有の危機が迫りつつあった。
「ついに、敵軍がこの王都にまで……」
王都を守護する巨大な城壁の上。
遠くに大群の姿を認めて、そこに配置されていた一人の兵士が絶望の表情で呟く。
「都市や砦を悉く陥落させられ、もはや残るはこの王都のみ……。しかしまさか、こんな短期間で……」
世界最強と自負していたローダ王国軍。
それが連戦連敗を喫し、あっという間にこの王都まで敵軍の侵攻を許してしまったのだ。
残されたこの王都を落とされてしまえば、もはや国は滅びてしまう。
だが彼らの士気は低く、むしろすでに絶望していた。
ローダ王国をここまで追い込んだのは、今や大陸のほぼ半分を支配している南の超大国、クランゼール帝国である。
この国の侵略を受けたのは、ローダ王国だけではない。
小国大国問わず、他にも多くの国々がこの帝国の餌食となっていた。
帝国軍が凄まじい快進撃を続け、ここまで勢力を伸ばしてきた最大の要因。
それはかの軍が有する、ある最強の兵器だった。
「あ、あれが帝国軍の〝巨人兵〟……っ!」
城壁の上のその兵士は、こちらに近づいてくる巨大な影を確認し、思わず叫んだ。
それは人に似た形状をしていた。
しかし胴体に比べると頭が少し大きく、手が長くて足が短い。
ずんぐりとしたその体形は、大猿に近いかもしれない。
内部に人が乗り込み、操作することが可能なこの兵器は、〝巨人兵〟と呼ばれていた。
噂では帝国が古代遺跡から発掘し、修復したと言われているが、圧倒的な攻撃力と防御力を誇るこの兵器には、熟練の精鋭兵たちですら歯が立たない。
加えて、
「っ! 撃ってくるぞ!?」
「あ、頭を低くしろおおおおおおおおおおおおおっ!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
その巨人兵から放たれた魔力の砲弾が、王都を守る城壁に直撃した。
凄まじい轟音と激震。
降り注ぐ無数の残骸。
ようやく身を起こした兵士たちが見たものは、粉々に破壊された城壁だった。
「い、一撃で……城壁が……」
あの兵器の前には、もはや城壁すら用をなさないのである。
籠城戦すら許さない破壊の化身を前に、兵士たちの僅かな士気ですら根こそぎ奪われていく。
「もはや……降伏するしかないのか……」
◇ ◇ ◇
「と、いうわけなのだ……」
「えええっ」
当初の上から目線はどこへやら、切迫した様子で懇願してくるようになったローダ王国の使者団に事情を問い詰めてみると、どうやら国の存亡がかかる緊急事態らしかった。
「最後に受けた報告では、すでに王都の目前まで攻め込まれてしまっていた……今頃はどうなっていることか……」
それで僕の力を是が非でも借りたかったのだという。
「貴様、いや、貴殿のギフトがあれば、この逆境を覆せるかもしれぬと、この地まで来たのだが……」
「もっと早く言ってよ……あれ? ということは……」
ピンとくる。
もしかして他の国々も実は同じ目的だったんじゃ……。
「間違いないだろう。恐らく近いうちに帝国はゴバルードやアテリ、それに地中海沿岸の国々もその手中に収めようとするはずだ。どの国もそのための対策として、あの手この手で貴殿に取り入ろうとしているのだろう」
だから何度も高価な品々をもって使者団が村に来たし、赴いたときにはものすごく歓迎されたのか。
「無論、当初は半信半疑だったに違いない。貴殿の噂を商人たちから聞きつけ、ダメ元で使者団を送り出した。だが実際にこの都市……村を見て、吾輩と同様、彼らも確信したはずだ。その力を借りることができれば、どれだけ心強いか、と」
ガイウスさんが地面に跪き、深々と頭を下げてくる。
「どうか、この通りっ……我が国を救うために、貴殿の力だけが頼りなのだ……っ!」
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