第353話 そういうのはちょっと
「これほどの都市……村を、その『村づくり』というギフトの力で、ゼロから作り上げたというのか……」
「もちろん僕だけの力じゃないです。村人みんなが協力してくれて、ここまで発展させることができたんです」
驚き過ぎて少し顔色の悪いローダ王国の使者ガイウスさんに、僕は補足する。
「……さらにそのギフトを用い、長く続いた内戦を終結させ、さらにはバルステ王国の侵攻を退けたというのも、間違いはないのか?」
「そうですね。それもみんなの協力があってこそ、ですけど」
どうせ知ろうと思えば簡単に知れることなので、否定せずに頷いておく。
「(確かにどこにでもあっという間に拠点を作り放題となれば、戦略上の優位は計り知れない……。さらにあの一瞬で移動できる謎の能力……これもまた途轍もなく有用だろう)」
何かを考えるように、しばらく腕を組んだガイウスさんは、やがて考えがまとまったのか、大きく頷いてから、
「いいだろう。村長ルークよ、我が国に来るがよい」
「え? 招待、ってことですか?」
うーん、それはちょっと嫌だな~。
他の国の招待には応じたけど、ローダ国はこの使者団の雰囲気からして、不愉快な思いをさせられそうだしなぁ……。
「そうではない。我がローダ王国の一員になれということだ」
「???」
唐突に何を言ってるんだろう、この人?
「今ならば吾輩の権限で、我が国の爵位を与えることもできるぞ」
爵位とか、一番要らないんだけど。
「これほどの都市を短期間に築ける人材を、村長などという立場に置いているなど、セルティアは愚かにも程がある。幸い我が国には、価値のある人間であれば、たとえ元の身分が低かろうと取り立てるという伝統があるのだ」
どうやら僕が村長なのは、国に蔑ろにされているからだと思っているらしい。
実際には何度も爵位を与えると提案されたけど、僕が断っているだけだ。
「ええと……遠慮します」
「なんだとっ!?」
断られるとは思ってもいなかったのか、大声で叫ぶガイウスさん。
「我が国の爵位だぞ? あくまで一代限りの男爵位だが、相応の活躍をすれば、陞爵することも可能だ!」
「いえ、僕は今のままで十分満足してますので」
「馬鹿な……貴様にはこの価値が分からぬのか?」
やはりそこは子供か……と忌々しそうにガイウスさんが呟く。
聞こえてるよ?
「ならば他に何を求める?」
「申し訳ないですけど、そもそもこの村を離れるつもりはないです」
「……貴様、吾輩がここまで下手に出ておるというのに……本当に断るというのか?」
どの辺が下手に出ているのだろう。
「後悔しても知らぬぞ!」
そうして大いに激怒したガイウスさんたち使者団の一行は、こちらの見送りも突っぱねて、すぐに帰ってしまったのだった。
だけどそれから数日後のこと。
またしても彼らは村にやってきた。
いきなり帰っていったことを反省した様子もなく、ガイウスさんは僕に会うなり唐突に切り出してくる。
「……先日の話であるが、子爵位ならばどうだ?」
いや、爵位の階級の問題じゃないんですけど?
僕の話、覚えてないのかな……。
「まだ国王陛下の許可は得ておらぬが、吾輩が説得してやろう。吾輩が進言すれば、認めてくださる可能性は高い。外国の人間が、いきなり子爵位を与えられるなど、前代未聞だぞ。子爵ともなれば、相応の土地を与えられる。無論、こんな荒野とは比較にもならない良質な土地だ。一生安泰どころか、子孫の繁栄までもが約束されると言っても過言ではないだろう」
またしても上から目線に、そんな提案をしてくる。
もちろん僕の答えは変わらない。
「すいません、せっかくのお誘いですけど」
「なっ……信じられぬっ……貴様、吾輩をどこまで愚弄すれば気が済むのだっ!」
再び激高し、ガイウスさん一行は帰っていった。
その後も、幾度となく村にやってきては、僕を自国へ引き入れようとしてきた。
しかし当初こそ傲慢極まりない態度だったというのに、
「は、伯爵位ならばどうだ!」
「ごめんなさい」
「侯爵位でなんとか!」
「申し訳ないです」
「吾輩の家を丸ごと差し上げよう! 無論、四人いる娘も! 可愛い娘ばかりだぞ!」
「そういうのはちょっと……」
「陛下が王女殿下を嫁にやってもよいとおっしゃっている!」
「だからそういうのはお断りしてますって」
「吾輩にできることなら何でもするから! 頼む! どうかこの通り!」
「ちょっ、頭を上げてください!」
段々と切羽詰まった様子になり、最後は懇願してくるまでになってしまったのだった。
「というか、そもそも何が目的なんですか?」
「じ、実は……」
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