第352話 まだほんの子供ではないか
セルティアと領土を接している国は、全部で四つある。
バルステ王国、ゴバルード共和国、アテリ王国の三国、そしてローダ王国だ。
ローダ王国は、セルティアの北西部に位置する大国で、その領土も国力もセルティアを上回るという。
セルティアとは古くから犬猿の仲にあり、過去、幾度となく衝突を繰り返している因縁の関係らしい。
「そのローダ王国からも使者が来ていて、僕に会いたがってる……?」
「うむ。そもそもあの国から使者が来るなど、非常に珍しいことなのだがな」
またしても王宮に呼び出された僕に、難しい顔をしながら王様が頷く。
「我が国の内乱に乗じて、いつ攻めてきてもおかしくなかったような国だ。どうやら島国と長らく戦争をしておったらしく、もしそれがなければ間違いなく我が国は侵略を受けていただろう」
そんな国が一体どこから情報を得たのか、僕との面会を求めているらしい。
「随分と横柄な態度の使者団で、余としては今すぐ自国にお帰り願いたいところなのだが、そなたの村には自治権を認めておるからの。勝手に突き返すわけにもいくまい」
「横柄な態度……」
今まで来た各国の使者団は、いずれも友好的な人たちばかりだったので、正直あまり想像できない。
「大国としての自負があるのかな……?」
「そんなかわいいものではない。やつら、我が国を下に見ておるのだ」
ともかく、面倒そうだけどその使者団に会ってみることに。
「吾輩はローダ王国の使者ガイウスである。まさか、貴公がルークか?」
使者団の代表者は、威厳のある口ひげを生やした三十代後半くらいの厳つい男性だった。
確かになんだかとても偉そうだ。
実際、自国内では偉い人なのかもしれないけど。
「はい、僕がルークですが……」
「……まだほんの子供ではないか。セルティアの王め、我々を愚弄しているのではないだろうな?」
「本物ですけど」
向こうから面会を望んできたというのに、随分と失礼なことを呟いている。
「あのテツドウとやらを作ったのは本当に貴公か?」
「そうです。ギフトを使ってですけど」
「俄かには信じられんが……まぁよい。とにかく貴公が作ったという都市を見せてもらおうではないか」
「え? 村に来るんですか?」
お願いするでもなく、決定事項のように言ってきたので、思わず聞き返してしまった。
すると彼は不愉快そうに鼻を鳴らして、
「当然であろう。なに、事態は急を要する。相応の儀礼は求めぬ」
ローダ王国の使者団を、望み通り村へ連れて行ってあげた。
「ほ、本当にこんな荒野にこれほどの都市が……しかもこの高層建築の数々に人の賑わい……もしや我が国の王都よりも発展して……い、いや、我が国の王都は千年もの歴史ある都、伝統が違う。比較はできぬ」
地下鉄の駅から地上に出ると、彼らは明らかに圧倒された様子だったものの、そんなふうに言って大国のプライドを保とうとしている。
「見どころはたくさんありますよ~。どんどん紹介していきますね~」
ふふふ、せっかくなのでマウントを取ってみよう。
僕はいつも以上に気合を入れて、村を案内していった。
「なんという清潔な街だ……ゴミ一つ落ちておらぬ……しかも誰でも利用できる公衆浴場や公衆トイレが各所に設置されているだと……? む? なんだ、このいい匂いは……。なるほど、あの屋台か……なに? 食べてみるかだと? 貴様、貴族であるこの私に、あのような卑しい庶民の食べ物を口にしろというのか? ……まぁ、しかしそこまで言うなら、一口くらい……う、うめえええええっ!? なんという美味さだ!? 我が国の宮廷料理でも、ここまで……はっ!? ご、ごほんっ。……ふん、庶民の食べ物にしては悪くないようだな。もぐもぐ。なに? 畑を見せたい? 貴様、そんな場所まで行く暇があると……え、もう着いた? な、何だ、この作物たちは!? こんなサイズの野菜、見たことがないぞ!? む? 次は畜産農場だと? この私を馬鹿にしているのか? そのような不潔な場所に、この私を……って、また一瞬で着いてしまった!? しかも何なのだ、あの巨大な家畜たちは!? ほとんど魔物ではないか! それにしても、まったく臭いがせぬような……。なに、今度は訓練場? やはり一瞬で着いた!? な、何なんだ、あの屈強な肉体の男たちは!? 向こうでは剣士同士が凄まじい速さでやり合っている!? なに? あれらが兵士ではなく、ごく普通の市民だと!? ま、まだ他にもあるのか!? ポーション!? まさか、ここでは普通にポーションが売られて――」
「――なにこの都市こわい」
「あ、村ですよ、一応」
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