第298話 特別指導とは羨ましいですな

「ギフトを授かれなかった人たちも、悲観することはないよ。ここの訓練場で訓練を積めば、一気にレベルアップできるからね」


 教会で祝福を受けてもらった後は、彼らを訓練場へと連れて行った。


〈訓練場:武技や魔法などの訓練のための施設。成長速度アップ、怪我防止機能〉


 そこではいつものように、村人たちがトレーニングに精を出している。


「な、何だっ、あの二人の剣戟は!? なんと凄まじい攻防なのだ……っ!」

「あっちの槍使いも凄いぞ……っ!? 速過ぎて目で追えぬ!」

「向こうにいる連中、どいつもこいつもすげぇ筋肉してねぇか!?」


 訓練の様子に驚いているみたいだ。


「こ、これがギフトの効果なのか……?」


 どうやらギフトの力だと思ったようで、マリベル女王が「ギフト持ちがこんなにいるなんて……」と呟いている。


「違うよ。ほとんどみんなギフトなんて持ってないよ」

「え? ということは、あれは単純に訓練で鍛えた結果……?」

「うん。つまりギフトがなくても、頑張ればあそこまで強くなれるってことだよ」


 正確には、この訓練場のサポート効果があってこそ、なのだけれど。


「色々あって、しばらく彼らもここで訓練することになったんだ。ぜひ指導してあげてね。全員モチベーションが高いから、厳しくしていいよ」

「「「任せておいてください、村長!」」」


 国を奪還するという動機を持つ彼らは、きっと死ぬ気で頑張ると思う。


「望むところだ。必ず強くなって、国を奪い返してみせる」


 と気合を入れているマリベル女王に、僕は言う。


「あ、女王様にはもっと良い指導者を付けてあげるよ。セレン、お願いしてもいい?」

「もちろんよ!」

「彼女が……?」


 胸を張るセレンに対して、マリベル女王は少し不安そうだ。


「大丈夫。こう見えて、セレンはこの村で二番目に強いんだから。あ、一番はもちろんゴリちゃんね。以前この村で開催した武闘会の決勝で、セレンは惜しくもゴリちゃんに敗れはしたけど、準優勝したんだよ」

「せっかくの決勝だったのに、余計な邪魔をされたけれどね!」

「うっ……」


 ……まだ根に持ってるみたいだ。

 武闘会のことはできるだけ話題に出さないようにしよう、うん。


「こんな可憐な少女が、あの化け物みたいな戦士と……?」


 まじまじとセレンを見るマリベル女王。

 一方、可憐と言われて、セレンはちょっと嬉しそうだ。


「おおっ、特別指導とは羨ましいですな、陛下」


 羨望の眼差しと共にガンザスさんがそう言ったときだった。

 背後からぬっと、巨大な影が彼に近づく。


「あらん。それじゃあ、おじさまはアタシが鍛えてあげようかしらん?」

「っ!?」


 噂をすればなんとやら、現れたのはゴリちゃんだ。

 ガンザスさんも大柄で筋骨隆々の身体なのだけれど、ゴリちゃんはそれよりさらに一回り以上も大きい。


「おじさま、『鉄人』のギフトを貰ったのよねぇ? だったら、きっとアタシのトレーニングにも付いて来れると思うわぁん♡」

「そ、それは……た、大変、ありがたい、話ではあるが……」


 ゴリちゃんにグイグイ迫られ、タジタジになるガンザスさん。


 ……ゴリちゃんのトレーニングって、めちゃくちゃハードなんだよね。

 以前、「ゴリーズ・ブートキャンプ」と銘打って、公開トレーニングが行われたことがあるんだけれど、訓練場で鍛えた屈強な村のマッチョたちが、まったく付いていけなかったのだ。


 マリベル女王が言う。


「よかったではないか、ガンザス! 彼女に指導してもらえるなら間違いないぞ!」

「へ、陛下あああああああっ!?」


 ガンザスさんが涙目で叫ぶ。

 こうなってはもちろん断ることなどできるはずもなく。


「では決まりねぇ! あはん、とぉっても可愛がってあげるわぁ♡」

「ひいいいいいいっ!」


 ゴリちゃんにがっしりと肩を掴まれ、そのまま引き摺られるようにして連れて行かれるガンザスさんだった。


「……生きて」


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