第299話 思ってたのとなんか違う
ルブル砂漠でも一、二を争う、広大なオアシスに作られたエンバラ王国。
その王宮の最奥で玉座に腰かけ、美女を侍らせているのは、身体のあちこちに刺青を施した若い男だった。
耳や口から幾つものピアスを提げた彼の名はカシム。
かつてこの国の王子として生まれるも、あまりにも素行が悪かったため、一度は王宮から追放された男だ。
それが各地を縄張りとしていた砂賊団を次々と支配していき、いつしか強大な一団を作り上げてしまった。
そうして先日、このオアシスへと舞い戻ってくると、圧倒的な戦力で国を制圧し、ついには玉座を奪い取ったのだった。
「それで、残党どもの居場所が分かったというのは本当か?」
「へい、お頭! 間違いありません!」
そんな彼の元に、ある報告がもたらされていた。
逃げた女王とその一団が、小さなオアシスに集まり、そこで国を奪還するための算段を立てているというのである。
「砂漠で野垂れ死んでいなかったか。運のいい女だ。だが、残った兵力などたかが知れているだろう。今さら何ができるというのだ?」
ククク、と嘲笑うカシムに、報告に来た団員が恐る恐る告げた。
「それが、二百ほどは生き残っているようでして……」
「なに?」
予想外の数に、カシムは眉根を寄せた。
二百といえば、エンバラ王国軍の精鋭兵がほぼそのまま残っている計算になってしまう。
何の備えもないまま砂漠に放り出されては、鍛えられた戦士でも容易には生き残れない。
ゆえに多くてもせいぜい五十程度かと考えていたのだ。
「ちっ、面倒な連中だな。仕方ない。おい、ゼル。隊を率いて残党どもを潰せ」
「了解。何人連れていっていい?」
ゼルと呼ばれたのは、カシムの腹心の一人である。
以前は砂賊の頭目をしていたが、カシムが率いる一団に敗れ、傘下に加わった男だ。
「そうだな。腐っても精鋭兵どもだ。マリベルも生きてやがるなら、士気も高いだろう。五百でどうだ?」
「五百か。十分だ。むしろこっちは大丈夫か?」
巨大な砂賊団といえ、総戦力はせいぜい千五百人ほど。
その十倍以上の人口を有するこの国の支配を続けるにも、相応の戦力が必要だった。
街中では今も、散発的に抗戦が起こっているのだ。
「はっ、オレ様を誰だと思っている? オレ一人いれば余裕だ」
「……そうだったな」
そうしてゼルは五百の砂賊を連れ、残党狩りへと出発する。
その様を見送りながら、秘かに口端を釣り上げていたのは、女王と残党の居場所をカシムに報告してきた砂賊の男で。
『サテン様。ルーク様にお伝えください。砂賊千五百人のうち、五百をオアシスから引き離すことに成功しました。残るは約千人。街を巡回しているのがおよそ九百。王宮に残っている兵が、せいぜい百といったところです』
◇ ◇ ◇
「ルーク村長、今、潜入させた砂賊から報告がありました。五百人が残党狩りに向かって、オアシスから離れたようです」
「ありがとう、サテン」
更生施設に入れ、ばっちり心を改めた砂賊たちを敵の元へと送り込むことで、上手く戦力を減らすことに成功したみたいだ。
街の警備に回している戦力を除くと、王宮には僅か百人ほどしか残っていないという。
「もうこの上はオアシスのはずだよ。このまま王宮の中まで繋げているので、直で乗り込んじゃおう」
僕たちは現在、砂漠の地下を通る地下道を使って、敵地へと向かっていた。
さすがに空からだと警戒されるしね。
二週間に及ぶ厳しいトレーニングによって、女王一行は大きくレベルアップしている。
きっとこの戦いに勝利し、国を取り戻すことができるはずだ。
とそこで、僕はあることに気づいた。
「……って、あれ? もうすぐ戦いなのに、あんまりモチベーション高くない?」
出発前には「命に代えてでも必ず国を奪還してみせる!」って感じだったのに。
首を傾げる僕に、女王一行はそろって叫んだのだった。
「「「だって思ってたのとなんか違う!」」」
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