第224話 まるで鉄じゃないか

 頼みのノエルくんがセレンに負けてしまった!

 どどどど、どうしよう!?


「い、いや……僕にはまだ、セリウスくんがいる……彼にすべてを託すんだ……っ!」


 セレンを決勝で破ってもらうしかない。

 だけどその前に、準決勝であの強敵を倒さないと……。


「ふふふ、また素敵な相手で、お姉さんとぉっても嬉しいわん♡」

「~~っ!」


 ゴリちゃんに微笑みかけられ、セリウスくんが頬を引き攣らせる。


 大丈夫!

 君ならやれるよ、セリウスくん!


 心の中で必死に応援する。

 ゴリちゃんは多分、セレン以上の強敵だと思うけれど、それでもセリウスくんには勝ってもらうしかない。


 もちろん村人強化で支援しないと。

 セリウスくんの戦い方を考慮すると、恐らく強化倍率を低めにし、強化時間を長くするのが良いと思う。


「さあ、どこからでも攻めてきてちょうだい……っ! アタシの愛と身体ですべて受け止めてあげるわぁっ!」


 腕を大きく広げて受けの体勢を取るゴリちゃんの誘いに、セリウスくんは猛スピードで斬りかかることで応じた。


 一瞬でゴリちゃんの脇を駆け抜けたかと思うと、ゴリちゃんの脇腹の服が切れ、中の筋肉が露わになる。

 いつの間に斬ったのか分からなかった。


「アナタ、とぉっても速いのねぇ?」

「なんて硬い身体だ……浅く皮膚が切れただけなんて……まるで鉄じゃないか……」


 思っていた以上にゴリちゃんの身体が硬かったらしい。


「だけど……それなら何度も何度も斬りつけるだけだ……っ!」


 そこからセリウスくんは幾度となくゴリちゃんを攻撃し続けた。

 ゴリちゃんも反撃しようとするけれど、セリウスくんの動きが速すぎてまったく当たらない。


「凄いわぁっ! アタシったら、一方的に攻められてばかりよぉっ!」

「今日のぼくはなんだか調子がいいっ! このまま畳みかける……っ!」


 ……調子が良いのは村人強化のお陰です。

 幸い本人は気づいていないみたいだ。


 何度も斬りつけられて、ゴリちゃんの身に付けていた衣装はボロボロだ。

 お陰であちこち露出してしまい、


「いやん♡」


 本人は恥ずかしそうに頬を赤くしているけど、見えてるのは全部筋肉だ。

 誰もそれで興奮したりはしない――


「うおおおおおおおおっ!」

「ゴリちゃんの身体がっ!」

「なんて見事な筋肉なんだ……っ!」


 ――前言撤回。

 一部のマッチョたちは除く。


 それにしてもセリウスくんの戦法は、ゴリちゃんと相性がいい。

 確かにあの鋼のような肉体のせいで尋常じゃない耐久力を持ってはいるけれど、このままダメージを与え続ければ勝ちも見えてくるはず……っ!


「アアン! そこぉっ! いいわぁっ! ハァン! もっとっ!」


 ……斬られる度に気持ちよさそうな声を上げているけど、ちゃんと効いてはいるはずだ。


「アン! い、イっちゃうわっ! アタシ、イっちゃうのぉっ! イクっ……」


 もはや裸同然の姿となったゴリちゃんが、恍惚とした顔で叫んだ。



「イクぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 途中で野太い雄叫びへと変わった瞬間、まだ残っていた布切れすべてが吹き飛ぶ。

 元から隆々だったゴリちゃんの筋肉が、さらに一回りも大きく膨れ上がったせいだ。


「うおおおおおおおおおおおおっ!!」


 猛々しく咆哮を轟かせ、ゴリちゃんの両の拳が光り出す。


「な、なんて凄まじい闘気だ……っ!」


 ラウルが驚愕する中、ゴリちゃんはその場で拳を連続で突き出した。


「おらおらおらおらおらおらおらああああああああっ!!」


 拳に合わせて、闘気の砲弾が射出される。

 超高速で五月雨のように飛んできたそれを、さすがのセリウスくんも躱すことができない。


「ああああああっ!?」


 闘気の砲弾を何発も浴び、リング外まで吹き飛ばされてしまった。


「うふふ、こんなにたぁっぷり出しちゃったの、久しぶりだったわぁ」


 ゴリちゃんがうっとりと笑う。


 準決勝第二試合はゴリちゃんの勝利。

 こうして決勝に進出したのは、僕の期待とは裏腹に、セレンとゴリちゃんの二人となってしまったのだった。

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