第26話 目を見れば丸分かりだよ

「よかった。上手くいったみたい」

「はい、さすがはルーク様です」


 物見櫓の上から見下ろしながら、この村が始まって以来最大の危機を無事に切り抜けたことに、僕は安堵していた。


 最初に捕まえたバールという名の男。

 盗賊団に『念話』ギフトを使える者がいると知って、逆にそれを利用してしまおうと言い出したのは、この村最年長のあのおばあちゃんだった。


「でも、ちゃんとこちらの意図通りに伝えてくれるとは限らないんじゃ……? 確認することもできないし……」

「いっひっひっひ……あたしにかかればそれくらい容易いことさね。それに人間、よっぽど訓練していない限り、嘘を誤魔化すことはできないね。目を見れば丸分かりだよ」


 おばあちゃんには自信があるらしい。


「というわけであんた、大事なタマ潰されたくなかったら、言うことを聞くんだねぇ!」

「ひぃ……っ!?」


 すっかりおばあちゃんに怯え切っている。


 ……まぁ、任せてみればいいかな。


 そして僕たちは盗賊団を迎え撃つことにした。

 バールを使って、門から村に入ってくるように誘導する。


 彼らが全員、村の中に入ったのを見計らってから、僕はまさにその足元へ堀を作成した。


 あらかじめ用意しておく形だと、先頭の何人かが落ちたとこで異変に気付き、後続が足を止めてしまうかもしれない。

 だからあえてあのタイミングで作り出したのだ。


 その作戦は見事にはまって、盗賊たちは一斉に堀にドボン。

 さらにセレンが青魔法を使って水を急速冷凍させ、彼らをそのまま堀と一緒に凍らせてしまうつもりだった。


 だけど、さすがにそう上手くはいかなかった。

 バルラットさんより二回り以上も大きな男が、凍っていく堀を強引に突破してきたんだ。


 あらかじめ話を聞いていたから、それがこの盗賊団の親玉だというのはすぐに分かった。


 親玉は水を凍らせているのがセレンだと見抜き、真っ直ぐ彼女に襲いかかった。

 セレンは魔法を中断し、それを迎え撃った。


 完全に堀が凍り切らなかったせいで、盗賊たちがこちら側へと泳ぎ着いてしまう。

 けれど、この展開も想定内だった。


 彼らを返り討ちにしたのは、バルラットさんをはじめとした、戦闘系のギフトを持つ村人たちだ。

 冷たい水のせいで身体が冷え切っていたこともあるだろうけれど、バルラットさんたちは盗賊たちを圧倒した。


 彼らの活躍で、再び冷たい堀へと転落していく盗賊たち。

 さらにセレンが親玉を倒したことで、彼らは完全に戦意を失ったようだった。


 こうして僕たちは、盗賊団から村を守り抜いたのだった。






 そして今、その盗賊たちは仲良く牢屋の中だ。

 人数が多くて入りきらず、新たに三つも牢屋を作成した。


「ルーク、盗賊に捕まっていた人たちを連れて帰ったわ」


 夜の激闘から一夜明けて、早朝に村を出発し、盗賊団に捕まった人たちを探していたセレン一行が戻ってきたようだ。


 疲れているところ大変だとは思ったけれど、牢屋の盗賊たちから情報を聞き出し、助けに行ってもらっていたのである。

 まだ奴隷商人に売られていく前でよかった。


「セレン、お疲れさま。無理させちゃってごめんね」

「これくらい大丈夫よ。残党たちとは最初こそ戦いになったけど、すぐに敵わないと見て逃げていったわ」


 捕らえた難民たちを監視するため残っていた盗賊は、二十人ほどだったという。

 ただ、親玉のような手練れもいなかったので、大して苦労しなかったようだ。

 バルラットさんたちにも一緒に行ってもらっていたしね。


 盗賊たちから情報を引き出したのは、もちろん最年長のおばあちゃんだ。


「いっひっひっ、あたしにかかればちょろいもんだね」


 ……どんな方法を使ったのかは、怖いので聞かないとしよう。


〈タミリアを代表する94人が村人になりました〉


 そうして助けた難民たちはこの村の住民になった。

 これで総人口は267人だ。


「それにしても、この盗賊たちどうしようかな……?」

〈村人にすることを推奨します〉

「……え?」

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