第255話 何も見つかりませんでした
調査を終えたカイン上級神官たちがアレイスラ大教会に戻ってきた。
相変わらず動くのも辛そうな巨体をソファに預けながら、アルデラ教会長が問う。
「それで、どうだったのだ?」
「はっ。隅々まで調査いたしましたが、あの村には何も見つかりませんでした」
「なに? それは本当か?」
「間違いありません。異端の教会も神官もおらず、勝手に祝福を与えているという事実もないようです。村に潜入していた者たちも無事に発見できましたが、村に上手く溶け込んでいた彼らも、何ら怪しいところはないと断言していました」
「……そうか」
腑に落ちない、という顔をしつつも頷くアルデラ。
だが信頼しているカインが嘘を吐くはずがない。
「ルーク村長も、アレイスラ大教会の教えは絶対だと申していました。そして近いうちに大規模な献金も行いたい、と」
「ほう」
献金という言葉を聞いて、アルデラの目が急に輝き出す。
「それはそれは、良い心がけだな。まぁ金額にもよるが……かなり儲けていると聞くし、期待はできそうだな……」
「……」
たるんだ頬を緩めて笑うその醜い姿に、上級神官が密かに軽蔑の眼差しを向けていたのだが、金に目が眩むアルデラは気づくことができなかった。
「たたた、大変です、教会長っ!」
「何だ、騒がしい? 見て分からぬか? 今は食事中だぞ?」
美女を侍らせ、食事を楽しんでいたアルデラは、不躾に部屋に飛び込んできた神官を睨みつけた。
その神官は一瞬怯んだものの、どうやらよほど緊迫した事態らしく、構わず報告を口にする。
「きょ、教会が、謎の集団に襲撃を受けていまして……っ!」
「襲撃だと? ふん、我がアレイスラには最強の聖騎士団がいる。何者かは知らぬが、何を慌てる必要がある? 教会の敷地内に足を踏み入れることすら敵わぬはずだ」
「それがっ……すでに教会内部への侵入を許しているのですっ!」
「何っ? 馬鹿なっ、聖騎士たちは何をしているっ?」
「じ、実は……」
そのとき再び部屋のドアが激しく開かれたかと思うと、そこにいたのは見知らぬ黒髪の女性だった。
なぜかメイド服を身に着けた彼女は、さも当然のように部屋に入ってきながら、
「あなたがアルデラ教会長ですね?」
「き、貴様、何者だっ!?」
「わたくしはミリア。メイド兼神官をさせていただいています」
「神官だとっ? 貴様のような神官に見覚えなどないぞっ!」
「それは当然です。わたくしは教会から神託のギフトを授かったわけではありませんので」
「な、何だとっ!? では、貴様が異端の……っ? だが、報告では……いや、そんなことより、一体どうやってここまで入ってきた!?」
アルデラが怒鳴りつけるとほぼ同時、謎のメイドが入ってきたそのドアから、遅れて謎の武装集団が入ってくる。
「ひっ……ど、どうなっている!? おいっ、聖騎士たちは何をしているのだっ!? なぜ誰も来ぬっ!?」
ソファからひっくり返りそうになりながらも、必死に怒声を響かせるアルデラ。
そんな彼の思いが通じたのか、部屋に見慣れた武装の者たちが駆け込んできた。
聖騎士たちだ。
「やっと来たかっ! 早く奴らを排除しろ! ……? おいっ、どうした!? なぜ誰も動こうとせん!?」
声を荒らげても、聖騎士たちは一向に戦おうとしない。
そしてどういうわけか、彼らに戦意がないことが分かっているかのように、襲撃者たちもまったく身構えることはなかった。
「無駄ですよ、教会長」
「っ、カイン!?」
そこへ落ち着いた様子で現れたのは、アルデラの右腕であるカインだ。
だが彼は謎のメイドを見遣ると、信じられない発言を口にする。
「ミリア様。ご命令の通り、教会内の者たちの大多数を眠らせておきました。頂戴したポーションは素晴らしい効き目ですね」
「村のエルフたちが作ったものですから当然です」
二人のそのやり取りを目の当たりにして、アルデラはようやく理解した。
「カイン、貴様っ、どういうことだ!? まさか、裏切ったのか……っ!?」
「信仰のあり方が変わるときが来たのですよ、教会長。もはやあなたのような醜い豚の存在など不要。聖母ミリア様、そして救世主ルーク様こそが、これからこの国の、いや、世界の信仰の中心になるのです!」
カインは完全に洗脳されてしまったようだった。
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