第50話 明日には戻ってくるかと

「セレンたちがまだ帰ってこない?」


 その日、狩猟に出かけたセレンたちが、夕刻になっても村に戻ってこなかった。

 最近、かなり陽が短くなってきているのですでに周囲は薄暗い。


 大丈夫かな?

 狩猟チームは人数も増え、以前よりさらに実力も付けてきていると聞いているし、きっと少し遅れているだけだと思うけど……。


 やがて太陽が完全に沈んで真っ暗になり、さすがに不安になってきた頃だった。


 元盗賊のサテンから、どうやら狩猟チームが帰ってきたらしいとの報告を受ける。

 ただ、人数が足りないという不穏なことを言い始めた。


『三分の一ほどでしょうか……』

『も、もしかして何かあったのかな?』


 僕は慌てて、森から一番近いところにある外石垣の北門へと走った。


 門が開いて、狩猟チームが入ってくる。

 ざっと見渡してみたけれど、セレンの姿がない。


 先頭のバルラットさんに、僕は思わず詰め寄った。


「な、何かあったんですか!? セレンや他のみんなは……」

「すいません、村長。心配しなくて大丈夫です。セレン班長はもちろん、みんな無事ですので」


 バルラットさんの言葉に僕はホッと胸を撫でおろした。


「ええと、それならみんなは一体どこに?」

「実はですね……」


 それからバルラットさんは、今日の狩りの際に起こった一部始終を話してくれた。


「いつものように狩りをしていたら、森の中から怒号や悲鳴のようなものが聞こえてきました。こんな魔境の森に人がいるのか……と不審に思いつつも、我々がその場所に行くと、そこには暴れ狂う熊の魔物マッドグリズリーの群れ、そして……エルフと思われる集団が、死闘を繰り広げていたのです」

「え、エルフ!?」


 エルフというのは、僕たち人間の近縁種とされている。

 長く尖った耳を持ち、非常に長命で、そしてその多くが美しい容姿をしているという。


 昔は人との交流もあったらしいんだけれど、色々と迫害されたりその見た目ゆえに酷い目に遭ったりして、今ではすっかり交流が途絶えてしまっているそうだ。


 こんな魔境の森の中にそのエルフがいたなんて……?


「マッドグリズリーの群れに苦戦していた彼らに我々が加勢し、どうにか全滅させることができました。ただ、我々の方はほとんど無傷だったのですが……エルフの多くが酷い傷を負っていまして……。彼らは森の中に築いた集落で暮らしているようなのですが、このまま負傷者を抱えて帰還するのは危険が伴うだろう――そこでセレン班長が申し出たのです。集落まで自分たちが同行する、と」


 何の報告もなく自分たちが帰って来なかったら、きっと村が心配するだろう。

 そう考えて、バルラットさんたち数人だけを帰還させることにしたという。


「じゃあ、今セレンたちはエルフの集落に?」

「そのはずです。夜の森は危険ですので、恐らく明日には戻ってくるかと」


 エルフの集落か……どんなところなんだろう?

 何はともあれ、セレンたちが無事そうでよかった。






 翌日、セレンたちが帰ってきた。


 あれ? でも見慣れない人たちを連れている?

 と思ったら、エルフたちだった。


「貴殿が村長のルーク殿か?」

「あ、は、はい」


 進み出てきた一人のエルフに声をかけられ、僕は上ずった声で返事をする。

 エルフと話をしたことなんて初めてなので、緊張してしまったのだ。


「私の名はフィリアヌス=メル=レボーレ=レオニヌス=セレネラーレという」


 長っ!?

 絶対覚えられないよ!


「長いのでフィリアと呼んでくれ」

「た、助かります」


 フィリアさんね。

 これなら覚えられる。


 彼らはエルフの戦士なのか、革製の鎧に身を包み、背中に弓矢を背負っている。

 聞いていた通り全員が美形ぞろいだけれど、中でもフィリアさんはきりっとした美しい眉と高身長も相まって、カッコ良さも兼ね備えている。


「この度は貴殿の村の方々に大変お世話になった。族長に代わり、直接お礼を申し上げるべく参上させてもらった」

「そうなんですね。わざわざすいません。何もない村ですけど、ぜひゆっくりしていってください」


 そうして僕は、村に初めてエルフを迎え入れたのだった。

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