第176話 またとんでもないことをする気ね
「父上と話してきたよ。ラウルのときと違って、今回は影武者を使ったから安全だったよね」
「……もはや何でもありね」
「さすがです、ルーク様」
本体に戻った僕は、セレンやミリアに父上としたやり取りを掻い摘んで話した。
「ということは、いよいよ攻めてくるってことね。色々と推計してみたけれど、二万を超える大軍になるのは間違いなさそうよ」
「ラウルのときが五千くらいだったっけ」
しかも今度は百戦錬磨の父上が自ら兵を率いてくるのだ。
一方、こちらの兵数は非戦闘員たちも搔き集めて、やっと一万といったところだろう。
村人の登録人数は十万を超えてるけど、北郡とかドルツ領、フレンコ領の人たちも含まれてるしね。
まぁ、最近は普通の村人たちも訓練場でトレーニングしてるので、そこらの兵士並に戦えるとは思うけど。
「ドルツ子爵やフレンコ子爵に協力を仰ぐのはいかがでしょう?」
「うちの実家も脅――頼めば協力してくれるかもしれないわ」
今、脅すって言いかけなかった?
「うーん、できればこの村に住んでるみんなだけでどうにかしたいかな」
「じゃあ、また前回みたいに城壁の迷路を作るのかしら? あれでかなりの兵力を削ることができたわよね」
「いや、今回はもっといい考えがあるんだ。攻めてくる方からしたら、物凄く嫌な戦法だけどね、ふふふ……」
「あ、きっとまたとんでもないことをする気ね……」
◇ ◇ ◇
エデル=アルベイル侯爵が率いるアルベイル軍が領都を出発したのは、ルークの影武者が敵地に乗り込んでから一週間後のことだった。
「ほほほ、たかだか一つの都市を落とすのに二万ですか。しかも我ら四将のうち三人も引き連れて。エデル様にしては随分と慎重ですねぇ」
「それだけ相手を脅威に感じておられるということだろう」
「……噂では……ラウル様が……五千の兵を率いて……敗北した……とか……」
「ほほほ、だから今の今まで報告がなかったわけですか」
「ふん、ラウル様もまだまだ子供だな。同じギフトを持つとはいえ、やはりエデル様ほどの器ではないか」
「……そこは……今後の……成長次第……」
そんなやり取りを交わしているのは、侯爵の側近である〝四将〟だった。
侯爵に忠誠を誓う彼らは、侯爵からの信頼も厚く、自らの判断で軍を動かす権限を与えられている。
しかもその各々が一騎当千の猛者だ。
戦場に出るたびに敵軍を蹂躙し、無数の武勲を上げてきた彼らは、破竹の勢いで領地を拡大してきたアルベイルの原動力となってきた。
「……」
そして二万の軍勢の中にはラウルの姿もあった。
しかし彼が率いるのは、初陣のときよりなお小さな部隊で、それも最後尾に追いやられてしまっている。
アルベイル卿に問い詰められ、すべて話してしまったためだ。
侯爵が最も激怒したのは、報告を怠ったことでも連絡もなく勝手に軍を率いたことでもなく、敗北を喫したことだった。
これまであらゆる戦場で勝ち続けた侯爵にとって、負けるということが何よりも許せないことらしい。
たとえ実の息子であろうと、弱ければ斬り捨てる。
『剣聖技』のギフトを保持しているラウルでも、決して安泰ではないのだ。
「(だが兵数を二万に増やしたのは、俺の話を聞いてからだ。父上も警戒しているらしい。もっとも、動く城壁の迷路に巨大な落とし穴、それにツリードラゴンだ。荒唐無稽なことばかりで、どこまで信じたのかは分からないが)」
と、そのときである。
軍の前方が何やら騒がしくなってきたのは。
「ふん、やはりか……」
またあの城壁の迷路が荒野に出現したのだろう。
果たして侯爵はあれをどう攻略するのか、心なしか少し期待しつつ、ラウルは先頭から少し遅れて荒野へと至る。
そこで彼が見たものは――
「………………………………………………………………………街が、ない……?」
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