第113話 シールドバッシュ
ラウル軍本隊が城壁迷宮を突破した頃。
「も、申し訳ありません! 幾ら探しても脱出できそうなルートは見つからず……っ! 加えてこの城壁、壁に凹凸が少な過ぎて、登るには相応の装備が必要かと……」
「……そ、そうか……うん、これはもうどうしようもないな……」
城壁に閉じ込められてしまった兵士たちは、各部隊を指揮する騎士たちも含め、もはや諦めの境地に至りつつあった。
「だいたい何なんだよ、この迷路は? しかも城壁が動くとか、意味不明なんだが」
「ほんと、常識を超え過ぎていて、何が何やら……」
「ってか、そもそもこの戦い自体、嫌がったんだよ。俺なんてついこの間、戦地から戻ってきたばっかだぞ? それが今度は領内で、しかも兄弟同士の戦いだ」
「おい、聞こえるぞ」
兵士たちの間での不満が高まっていた、そのとき。
――オアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「何だ、今のは?」
「お、雄叫びのようにも聞こえたが……」
遠くから聞こえてきた咆哮に、ざわついていた彼らも一瞬で静まり返った。
生物としての本能か、背中の辺りがぞわりとして、今すぐこの場から逃げ出したい感情に襲われる。
「もしかして魔物……? そういや、この荒野の先には魔境の森があったっけ……」
「まさか俺たち……魔物の餌にされちまう、とか……?」
恐ろしい想像に、兵士たちの顔が真っ青になっていった。
突如として自軍に襲い掛かってきた巨体に、ラウルは我が目を疑った。
「ドラゴンだとぉっ!?」
いや、よく見るとその体表は木肌で、身体のあちこちから枝や葉っぱらしきものが生えている。
どうやらドラゴンに擬態した植物系の魔物、ツリードラゴンのようだ。
だが幹の太さは十メートル以上、体長に至っては三十メートルをゆうに超えており、もはやドラゴンと比較しても決して引けを取らない迫力だ。
それがラウル軍の横っ腹に突っ込んでくる。
「「「ぐあああああああああっ!?」」」
兵士たちが紙屑のように吹き飛ばされた。
暴れ回るツリードラゴンを前に、歴戦の兵士たちですら成す術もない。
「一体どうなってやがる!?」
思わず足を止め、後方の地獄絵図を睨みながら叫ぶラウル。
周囲を高い城壁に護られたこの場所だ。
ツリードラゴンと言えど、簡単には入ってくることなど不可能なはず。
「まさか、あんな化け物を手懐けてやがるってのかよ!?」
敵軍へと視線を転じて、ラウルははっきりと確信した。
忌まわしき腹違いの兄をはじめとして、敵は誰一人として慌てていないのだ。
あの魔物が自分たちには襲い掛かってこないと分かっているのだろう。
「『魔物使い』のギフト持ちがいやがるってのかっ!? ちぃっ! だがそれなら話は早ぇっ! 全軍、無視して敵陣に突っ込めぇぇぇっ!」
ツリードラゴンに対処するより、魔物を操っている張本人を倒す方が早いと判断したのだ。
後方の兵たちの大部分がツリードラゴンに蹂躙されているが、難を逃れたラウルを含む前方の兵がまだ百人はいる。
しかもただの百人ではなく、精鋭中の精鋭で構成された百人だ。
「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
ゆえにここまで来てもなお彼らは勇猛果敢で、戦意を失ってはいなかった。
怒涛の如く敵陣へと激突していく。
そのときだ。
先頭を駆けるラウルの前に、巨大な盾を構えた敵兵が立ちはだかったのは。
体躯こそ立派なものだが、まだ幼い顔立ちをしていて、ラウルとそう歳は変わらない少年だろう。
「邪魔だ……っ! 盾ごとそのでかい図体を斬り捨ててやる……っ!」
ここまで散々、敵にしてやられてきたのだ。
自らこの戦況を一変するような反撃の狼煙を上げるべく、ラウルは渾身の一撃を叩き込まんと、身体の内から闘気を滾らせて躍りかかった。
その瞬間、相手が盾を構えたまま猛烈な勢いで突進してきた。
「なっ?」
予想外の動きに息を呑むラウル。
さすがの反射速度で即応し、すぐさま斬撃を繰り出そうとしたが、迫りくる相手の盾の方が僅かに早かった。
「シールドバッシュっっっ!!」
「~~~~っ!?」
気づけばラウルは思い切り弾き飛ばされていた。
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