第174話 すぐに連れ戻せ
「あ、アルベイル北の荒野を調査していた者たちからの報告です!」
アルベイル軍が王宮を占拠してから、およそ一週間後。
彼らの元に信じがたい報告がもたらされた。
「確かにそこに都市が存在していたとのことです! 二重の城壁に護られ、巨大な建造物が多数! すでに人口は数万人にも上り、現在も次々と移住者が集まってきていると!」
国王の言葉が真実だったことが裏付けられたばかりか、それすらも上回る内容に、軍の幹部たちも驚愕するしかない。
「馬鹿な。あそこは確かに何もない場所だったはずだ」
「そこに二年もかけずに人口数万の都市だと?」
「一体どんな手を使えばそんな真似が……? まさか、ルーク様にそれほどの才能があったとは……」
アルベイル侯爵はそれを、苦虫を噛み潰したような顔で聞いていた。
当然だろう、実の息子の持つ力を見抜くことができず、放逐してしまったのは彼なのだ。
だがここまで放置してしまっていたのは、アルベイル領をもう一人の息子に任せていたからでもある。
「ラウルの奴め、なぜ今までそれを報告しなかった」
「さ、さすがにラウル様にも、そんな荒野に都市が作られるなど、想像すらできなかったのでしょう」
家臣の一人が慌ててフォローする。
……もっとも、ラウルはとっくに知っていながら黙っていたのだが。
「それで、その都市で王女は見つかったのか?」
「は、はい」
「ならばすぐに連れ戻せ」
「それが……当人が帰還を拒んでいるだけでなく、その都市で保護されており、強引に連れ去るのは難しいとのことで……」
「ならばルークの奴にこう伝えろ! すぐに王女を寄越さねば、私が直々に軍を率いてその都市ごと叩き潰してくれるとな!」
声を荒らげ配下に命じるアルベイル卿。
だが数日後、返ってきたのは彼をさらに激怒させる返答で。
「今すぐアルベイル領に戻る! 私に逆らえばどうなるか、奴に分からせてやらねばな!」
王宮のことは部下に任せ、自ら領地へと舞い戻るのだった。
◇ ◇ ◇
「王女殿下はすでに我が都市の一員。もし彼女を連れ戻したいのなら、かかってこいやコラ――という趣旨の手紙を送っておきました。恐らく近いうちに兵を率いて攻めてくるでしょう」
「何やってんの!?」
ミシェルさんは国王陛下がアルベイル領に送り込んだスパイだった。
そしてこの国を奪われないために考え出した最後の手段が、どうやらこの村とアルベイル軍を激突させることだったみたいだ。
なんて迷惑極まりない話だ……。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! まさか、ルーク様の了承もなしに事を運んでいくつもりですのっ?」
「もちろんそうですよ、殿下。そもそも断られたら終わりですからねぇ、断りようがない状況を作っておくことが大事なのです」
「なっ……」
どうやら王女様は詳しいやり方までは知らされていなかったらしい。
「……」
「は、はは、いやぁ、そんな目で見られると、胸が痛むというか……わ、私も当然ながら断腸の思いでして、ええ……。ただ……そもそもアルベイル侯爵とルーク様の思想は、絶対に交わることのない水と油。遅かれ早かれ、お二人は激突する運命だったと思いますよ? いつまでもこの村の存在を侯爵に隠し続けることなどできませんしねー」
「ルーク様、本当に申し訳ありませんわ! ですが、頼れるのはあなただけですの! どうかお力を貸してくださいまし!」
僕は大きく溜息を吐いた。
「はぁ……仕方ないなぁ。気は乗らないけど、もうどうしようもないわけだしね。それに僕にだってだいたい想像はつくよ。父上がこの国を支配したら、どんなことになるか」
「で、では……っ!?」
「さすがに僕の独断じゃ決められないから、みんなに相談してからね」
「はは、ルーク様が言えばあっさり賛同されるかと。それより、勝算についてはどのように考えておられますかねー?」
ミシェルさんが暢気に訊いてくる。
殴っていいかな?
「作戦次第ってところかなぁ? ていうか、僕は小さな村で静かに暮らしたかっただけなのに……どうしてこうなったんだろ?」
「し、静かに暮らしたかっただけ……? あの出鱈目なギフトで散々ヤバいことをしておいて、何かの冗談ですかねぇ?」
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