第181話 運が良ければ死なずに済む
「何だ、今の魔法は!?」
「もの凄い音だったぞっ!?」
「しかもこの揺れにこの土煙っ……なんつー威力だ!?」
「見ろ! 煙があんなとこまでっ……こんな広範囲魔法ありかよっ!」
「冗談じゃねぇ! こんな相手とやり合えるかってんだ! 逃げろ!」
大砲というものを見たこともない彼らは、どうやらそれを魔法によるものだと思ったらしい。
その圧倒的な破壊力を目の当たりにして、恐怖のあまり逃走するものが続出した。
「え、エデル様っ! 危険です……っ! これでは接近することもできません……っ!」
「狼狽えるな! 地面をよく見ろ! 穴が開いているのはごくごく一部だ!」
土煙が晴れ、次第に前方の様子を確認できるようになってきた。
アルベイル卿が指さす先へと視線をやると、確かに地面のあちこちが深く抉られてはいるが、穴と穴の間は十メートルほどの間隔があって、矢の雨と比べればずっと直撃を受ける確率は低そうである。
「運が良ければ死なずに済む! 行くぞ!」
「「「お、おおおおおおおおおおおっ!」」」
残った兵士たちが決死の叫び声を轟かせ、一斉に王都に向かって進軍を再開した。
しかしその出鼻を挫くように、そこへ再び鉄塊が降ってくる。
轟音と地震、跳ね上がる土砂。
やはりその恐怖に耐えられず、砂煙に紛れて離脱する者が出る。
実を言うと、鉄塊が兵士たちに直撃することは一度もなかったのだが……戦場を必死に走る彼らがそれに気づくことはなかった。
そうしてついに先頭が王都を守護する城門へと辿り着いたときには、アルベイル軍の兵数は五千を切っていた。
◇ ◇ ◇
「よしよし、大砲脅し作戦は上出来かな。じゃあ、みんな撤収っ!」
城壁の上、影武者に乗り移った僕は、ドワーフ隊に撤退の指示を出す。
少なくともこの国では、大砲が戦争で使われることはない。
武技と魔法が発展しているので、そうして兵器開発には力を入れてこなかったのだろう。
だからこんなに轟音を響かせ、広範囲に地面を爆発させた現象も、魔法によるものだと思ったはずだ。
もし大砲だと分かっていれば、きっとここまで恐怖することはなかったに違いない。
「しかも地面を狙って撃ってただけだし」
言ってみればただのハッタリだったのだけれど、それでも多くの兵士を離脱させることに成功した。
それでもさすがにこの程度で父上の戦意を挫くことはできないようで、少なくなった兵士たちを引き連れ、城門へと突撃してくる。
「ガイオン!」
「はっ! うおおおおおおおおおおおっ!」
その先陣を切ったのは、ガイオンと呼ばれた身の丈二メートルを超す巨漢だ。
乗っている馬も小さめの象くらいあって、巨大な棍棒を手に速度を落とすことなく城門へと突っ込んできた。
確か、四将と呼ばれる父上の側近の一人だ。
ドゴオオオオオオオオオオオオンッ!!
そのまま巨大な棍棒を城門へと叩きつけ、門扉を吹っ飛ばしてしまった。
そして悠々と城門を潜り抜けていく。
「……なんて馬鹿力」
たぶん何らかのギフトを保持しているのだろう。
あんな真似ができる人間がいたなら、アルベイル軍が攻城戦で無双してきたのも頷ける。
こんなふうに個人の圧倒的な力があるからこそ、兵器開発の優先順位が低いのだ。
「ま、想定通りだけど」
王都内に侵入したアルベイル軍は、真っ直ぐ王宮に向かって前進する。
だけど半分ほどが王都に入ったところで、僕は破壊された城門を新しく作り替えてやった。
「っ!?」
「門扉が復活した!?」
「入れなくなったぞ……っ!?」
いきなり門を塞がれてしまい、後続が慌てて足を止める。
三千近い兵たちが王都の外に取り残されたような形だ。
ここ王都はすでに、僕の村の領内へと組み込まれている。
だから城壁を作り替えることもできたし、今みたいに壊された城門をすぐに作り直すことも可能だ。
そんなことも知らずに、残り二千を切ってしまった兵を率いて、父上は王宮に向かって前進を止めない。
いよいよ決着をつけるときが近づいてきていた。
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