第378話 祭壇に置いただけ

「はい、次の十本」


 影武者がどんどん聖水を持ってきてくれる。

 それをベガレンさんたちが、ヒュドラゾンビとトロルマミーに投げつけていった。


「「「アアアアアアアッ!?」」」

「ウオアアアアアアアッ!?」


 聖水を浴びた上級アンデッドの身体が瞬く間に崩れていく。


「どういうことですのっ!? 並の聖水なんて、効かないはずですのよっ!」


 慌て出すリッチ。

 どうやらこの聖水、かなり強力なもののようだ。


「ミリア、どうやって作ったんだろう? いくら神官でも、さすがにこの数を一人じゃ無理だろうし……」

「大聖堂の祭壇に水の入った瓶を置いただけだって」


 僕の疑問に影武者が答えてくれた。


「祭壇に置いただけ? いや、そうか……」


 今や村の大聖堂には毎日、大勢の参拝客が訪れている。

 その祈りの総量となると、凄まじいものがあるだろう。


 確かに強力な聖水が簡単に量産できそうだ。


 そうこうしている間に、ヒュドラゾンビとトロルマミーが完全に浄化され、灰となって消滅する。

 次の狙いは多腕のスケルトンだ。


 ただ、身体が骨なので、なかなか当てづらい。


「ドリアル! バンバさん! これを武器にかけて!」


 そこで僕は聖水を彼らに放り投げた。

 二人はそれをキャッチすると、自分の武器を聖水で濡らす。


「はっ、こいつはいいな!」

「これなら斬った部分が元に戻らないべ」


『斧技』のドリアルは巨大な斧で、『剛剣技』のバンバさんは大剣で、それぞれスケルトンの骨を豪快に両断していく。

 先ほどまではすぐに骨がくっ付いて修復してしまっていたけれど、聖水を浴びた武器で破壊された骨は簡単には治らない。


 そしてスケルトンを倒したところで、リッチが叫んだ。


「グリムリーパーっ! あの少年をヤるんですわっ!」


 直後、影に潜って姿を消したグリムリーパー。

 一体どこに現れるのかと思っていると、すぐ背後から気配が。


 振り向いたときにはすでに、大鎌が僕の首を刈り取ろうとしているところだった。


「村長!?」

「ルーク様っ!」


 ベガレンさんたちが慌てて叫んだけれど、そのときにはすでに僕はグリムリーパーの後ろに瞬間移動していた。

 大鎌が空を切る。


「姿を消して移動できるのは、君だけじゃないんだよね」


 死神にそう教えてあげつつ、持っていた聖水をまとめてその身体に叩きつけてやった。


「~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 聖水を浴びて、悶え苦しむ死神。

 すかさずバルラットさんたちが殺到して猛攻を浴びせると、死神は纏っていたボロボロの布と大鎌だけを残して消滅した。


 それからセレンたちも聖水をかけた武器でデュラハンを倒す。

 残った下級アンデッドたちも片づけると、後はリッチを除くと、リビングアーマーだけだ。


 このリビングアーマーがなかなか手強かったのだけれど、たった一体で僕たち全員を相手するのはさすがに荷が重かったようだ。

 バラバラになった鎧が地面を転がり、完全に沈黙する。


「う、嘘ですわ……まさか、あたくしの誇る精鋭たちが……」


 最初の威勢はどこへやら、わなわなと唇を震わせているリッチ。


「後はあんただけね」


 セレンが剣の切っ先をリッチに向ける。


「くっ……小娘がっ……このあたくしを、舐めるんじゃないですのよ……っ!」


 リッチが手にしている禍々しい杖を掲げると、ドス黒い靄が噴出。

 それが瞬く間にこの部屋に拡散していく。


「みんな気を付けてぇ! あの靄に触れちゃうと状態異常に侵されちゃうわぁん!」


 注意を促すゴリちゃんに対して、リッチは哄笑を上げる。


「あはははっ、無駄ですのよ! 今この場所は完全な密閉状態! これから逃れる術はありませんの! 少しでも触れたら最後、睡眠と混乱と幻覚とステータスダウンで、もはや戦うことすらままなりませんわぁ! そして何より長時間これを受け続けると、立派なアンデッドのできあがりですのよ!」


 僕は施設カスタマイズを使って、リッチの後ろの壁に穴を開けた。


「フィリアさんとセリウスくん、あの靄、風魔法であそこから吹き飛ばしちゃって」



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コミック版『魔界で育てられた少年、生まれて初めての人間界で無双する』4巻とコミック版『ただの屍のようだと言われて幾星霜、気づいたら最強のアンデッドになってた』4巻、本日発売です! ただの屍の方は完結巻となります! どちらもよろしくお願いします!

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