第379話 人間なんですぅ
施設カスタマイズで、リッチの背後の壁に大穴を作り出す。
そして『緑魔法』のギフトを持つフィリアさんとセリウスくんに、風の魔法で靄を吹き飛ばすようお願いする。
「了解した」
「任せてくれ!」
猛烈な風が吹き荒れ、思い通りにリッチの靄が流されて、穴から外に出ていく。
「……は?」
リッチは何が起こっているのか理解できていないようで、しばし唖然としてから、
「な、何でこんなところに穴が空いてるんですのおおおおおっ!?」
絶叫している彼女を余所に、僕は聖水をみんなに配っていった。
「じゃあ、一斉に投げるよ。せーのっ」
僕の合図で、全員がリッチ目がけて聖水を投擲する。
風の後押しもあって、それらはすぐにリッチのところへ殺到した。
パリパリパリパリンッ!!
何本かは外れちゃったけれど、それでも十本近い瓶がリッチに直撃し、一瞬にして聖水でびしょ濡れになるリッチ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!?」
おっ、かなり効いてるみたい。
アンデッドの王とも呼ばれるリッチでも、この聖水は十分な効果があったみたいだ。
絶叫を上げながら地面を転がり、のた打ち回っている。
もはや靄を出す余裕もなければ、他の攻撃ができそうな感じもない。
隙だらけのリッチに近づいていくと、セレンが聖水で濡れた双剣でトドメを指そうとした、そのときだった。
「っ!」
彼女の身体を縛り付けようとしたのか、影のようなものが飛んできたのを、セレンはすんでのところで回避していた。
「何者っ?」
僕はてっきりリッチの仕業かと思ったけれど、相変わらず地面に転がったままだ。
一方セレンは攻撃の主をすぐに察知したようで、視線を別の方向へと向けていた。
柱の陰。
そこからゆっくりと姿を現したのは、顔の半分以上が前髪で隠れた、不気味な女性だった。
「まだ仲間のアンデッドがいたのね!」
セレンが二本の剣を構える。
一方、その女性は、
「っ……わ、わ、わ、わたしは……あ、あ、あ、アンデッドじゃ……ないですぅ……」
消え入るような声でそう主張した。
「嘘おっしゃい! どう見たってアンデッドじゃないの!」
「は、はい……よく、言われます……見た目が、ゾンビとか、ゴーストみたいだって……で、で、でも、れっきとした、人間なんですぅ……」
女性は震えながら頷いてから、改めて否定した。
「ガイさん?」
「うむ。あやつが言っていることは間違いない。アンデッドの気配は感じぬ」
どうやら本当にアンデッドではないらしい。
「じゃあ何でこんなところにいるのよ?」
セレンが問い詰めると、
「じ、実は、その……わたし、個人的に、アンデッドが……す、好き、でして……そ、それで、ここにリッチがいるって話を聞いて……その……ぜ、ぜひ一度、会ってみたいなと、思ったんですぅ……」
アンデッドではないけど、ヤバい人なのは間違いないようだ。
「た、ただ……リッチに捕まって……ずっと地下牢に、閉じ込められてたんですぅ……魔法で拘束されて、逃げられなくて……で、でも、どういうわけか、少し前から拘束が弱まって……そ、それで、脱走しまして……」
恐らくリッチの意識が僕たちとの戦いに集中したためだろう。
それで彼女は何が起こったのかを確かめようとここまで来たところで、リッチがやられそうになっているのを見つけたという。
「それで何でこいつを庇うのよ?」
「そそそ、それはですね……わたし、実はネクロマンサーなんですけどぉ……ぜひそのリッチを、眷属に加えたくて……それで、つい……」
僕は彼女が言っていることが本当か確かめるため、村人として登録し、村人鑑定を使ってみた。
―――――――――――――
クロマ
年齢:20歳
愛村心:低
推奨労働:ネクロマンサー
ギフト:死霊術
―――――――――――――
「セレン、確かにその人、ネクロマンサーではあるみたい」
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