第138話 メイドの呼吸、壱の型
「……あれ?」
振り返るとそこにいたのは息を荒くしたミリアだった。
何だ、ミリアか。
赤い点がいきなり現れ、こっちに近づいてきたから警戒していたんだけど……。
でも……ちょっと様子がおかしいような?
「ハァハァ……る、ルーク様……少し、わたくしとお散歩しませんか……?」
「さ、散歩?」
「ふ、ふふふ……大丈夫です……何も、何も怖くないですから……」
いやいや、どう考えても怖いんだけど!?
不気味な笑みを浮かべるミリアに恐怖を感じて、僕は思わず後退った。
メイド時代からずっと尽くしてくれている彼女が僕に何かしてくるとは思えないけど、直感が警鐘を鳴らしてくる。
「どうされたんですか……? さあ、一緒に逝きましょう……」
やっぱり今のミリアは何かおかしい!
だいたいマップ上で彼女を表す点が赤く、しかも〈変態〉になっている時点で変だ。
もしかして、何者かがミリアに化けている?
その可能性に思い至った僕は、村人鑑定を使ってみた。
―――――――――――――
ミリア
年齢:23歳
愛村心:超
推奨労働:神官
ギフト:神託
―――――――――――――
……うん、残念ながら本人だ。
だけどこの急変の原因は村人鑑定では分からない。
村人鑑定Ⅱの方でもっと詳しく鑑定すれば……いや、それをやると見てはいけないものを見てしまいそう……。
「メイドの呼吸、壱の型! 『ご主人様、お呼びでしょうか!?』」
「っ!?」
一瞬で距離を詰められた!?
ミリアってこんな速さで走れたっけ!?
「説明しましょう! メイドの呼吸、壱の型『ご主人様、お呼びでしょうか!?』とは、ご主人様の元へ馳せ参じる速度を何倍にも高める、メイドならではの呼吸なのです!」
解説してくれた!?
てか、メイドならではの呼吸って何さ!?
「メイドの呼吸、弐の型! 『ご主人様、お運びいたします!』」
「うわあああっ!?」
持ち上げられた!?
ミリアにこんな力があったなんて……っ!
「説明しましょう! メイドの呼吸、弐の型『ご主人様、お運びいたします!』は、ご主人様をお運びする際の力を何倍にも高める呼吸なのです!」
解説されても正直よく分からない!
「大丈夫です、ルーク様。すぐによくなりますから……ぐふふふ……」
「ひぇっ……」
そのまま僕はミリアに抱えられ、どこかへと連れて行かれそうになる。
こ、このままじゃマズい!
誰かに助けを……あっ、前から二人組のご婦人方が!
「助けて! ミリアに拉致された!」
「あらあら、仲がいいですわね」
「うふふ、羨ましい」
「ちょっ、違うから! ガチだから、これ! きっと危ないとこに連れて行かれる!」
「あらあら、わたしもイケメン王子様に攫われて、危ないことしてみたいですわぁ」
「うふふ、素敵」
……ダメだ、この二人組。
「村長、お疲れ様です!」
「今日はミリア様とデートですか? 羨ましいですね!」
今度は男性の二人組だ。
僕がミリアに抱えられているこの状況のどこがデートに見えるのだろう。
「た、助けて! 僕いま無理やり連れて行かれそうになってる!」
「無理やり……ごくり」
「そのお歳ですでにそういうプレイを……さすが村長……」
「違うから! 本気で助けてほしいの!」
「あ~あ、俺も美人のお姉さんに色んなこと教えてもらいたかったなぁ」
「この歳じゃあ、もはや叶わぬ願いだ」
うん、この二人もダメだ……。
そうしてミリアに連れて行かれたのは、僕が最近、地下に作った飲み屋街だった。
だけどそれは一種のカモフラージュ。
村人たちの要望を受けて作った、ある目的のためのホテルを隠しているのだ。
僕を抱えたミリアは、そのうちの一つの入り口前で立ち止まった。
そこでようやく下ろしてもらえたけど、がっちり手を掴まれていて逃げられない。
「ハァハァハァ……さあ、ルーク様、一緒に参りましょう……っ!」
「ま、待って、ミリア……っ! そもそもこのホテルは――」
「勇気を持って、大人の階段を……っ!」
僕の言葉を遮り、強引に突入しようとするミリア。
だけど次の瞬間、彼女の前に従業員が立ちはだかった。
「申し訳ありませんが、十六歳未満の方のご利用はお断りしております」
ミリアはその場に崩れ落ちた。
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