第139話 うちの牛っすよ

 その日、僕は村の外れに設けられた家畜小屋へとやってきていた。


「あ、ルーク村長! お疲れ様っす!」

「お疲れ様、ネルル。家畜たちの様子はどう?」

「お陰様で、みんなとっても元気っす!」


『動物の心』というギフトを持つネルル。

 彼女に管理を任せているのは、家畜たちの世話だ。


 牛や鶏、羊などを飼っていて、彼らのミルクや卵はその美味しさから、この村の隠れた名産となっていた。


「「「も~」」」

「「「め~」」」

「「「こけここここ」」」

「わっ、かわいい」

「最近、生まれたばかりの子たちっす! さすがルーク村長っすね! もう懐かれてるっすよ!」

「それにしても子供がこんなにたくさんいるなんて……そんなに家畜いたっけ?」

「成体だけで言うと、だいたい牛が二百頭、鶏が五百羽、羊が百頭、馬が五十頭、その他が五十頭といったところっすね!」

「え、そんなに?」


 元々、商人のブルックリさんから購入したのは十匹くらいだった。

 新しく連れてきた子もいるけれど、その大半はここで生まれてきている。


〈家畜小屋:家畜専用の小屋。家畜たちの成長促進、健康維持、繁殖力強化、強力消臭〉


 やっぱり家畜小屋の効果だろう。


「でも、ミルクや卵の需要を考えると、全然足りないような……?」


 家畜が増えたと言っても、それ以上に村人の数が増えているのだ。

 十分な量を賄えるとはとても思えない……はずなんだけど、今のところミルクや卵が枯渇してるっていう話は聞かない。


 一体どうしてだろう?


「せっかくっすから、放牧場の方も見ていってほしいっす!」


 家畜小屋に隣接する形で、広い放牧地を設けている。

 と言っても、放牧地は作れるリストに存在しないため、元は公園だ。


〈公園:村人たちの憩いや遊びのための区域。村人たちの健康維持、愛村心アップ〉


 これに施設カスタマイズを使い、緑地を増やして放牧地に変えたのである。

 自然公園に近いかもしれない。


「うも~~~~っ!」

「っ!?」


 突然、轟音めいた鳴き声とともに目の前に巨大な影が現れ、僕は思わず後退った。


「ま、魔物!?」

「違うっす! うちの牛っすよ!」

「え? 牛……?」


 よく見ると、確かに牛だ。

 ただし体高は三メートルを超え、全長は五メートルを軽く凌駕している。


 僕が知っている牛とは桁違いの巨体。

 魔物と見間違えるのも無理はないと思う。


「この子はここで生まれた牛っす! 大きくなったっすよね!」


 大きくなったというレベルじゃない。


「にゅ、乳牛だよね、これ?」

「そうっすよ!」

「こんなに大きくなるものかな……?」


 しかもこれ一頭だけじゃない。

 どの牛も負けず劣らずの巨大さなのだ。


「見ての通りとっても大人しくて賢いっす! それに、いっぱいミルクを出してくれっるっす!」

「うもー」


 た、確かにこの巨体なら相当な量が取れそうだ。

 二百頭いるなら村人たちが飲むミルクも、それなりに賄えるかもしれない。


「あ、でも、雄だと幾ら大きくても乳は出ないよね?」

「そうっすけど、不思議なことに生まれてくるの女の子ばっかりなんすよねー」

「え、そうなんだ」


 のんびりと草を食べている牛たちをよく見てみると、確かにその大半が雌だった。

 乳牛は乳房が大きく膨らんでるから、僕でも簡単に雄雌を見分けられる。


「ミルクについては納得できたけど、卵は……」

「こけここここここ~っ!」

「っ!?」


 今、目の前をダチョウみたいな鶏が通り過ぎて行ったんだけど!?


「ここで生まれた鶏っす!」

「気のせいじゃなかった!」


 どうやらここで生まれ育った鶏もまた、牛と同様に巨大化しているらしい。

 よく見ると体高二メートルに迫る巨大な鶏たちが、牧場内を元気よく駆け回っていた。


「卵をたくさん産んでくれるっすよ! あ、見てくださいっす! あそこ、ちょうど産んでるところっす!」


 言われて視線を向けると、ちょうど一羽の鶏のお尻から卵が出てくるところだった。


「あれ? 意外と普通の大きさ?」


 ダチョウの卵のような大きさを予想していたら、せいぜい普通のものよりちょっと大きい程度のサイズだった。

 と、次の瞬間。


 すぽぽぽぽぽんっ! と物凄い勢いで次々と卵がお尻から飛び出してきた。


「一羽が一日に五十個くらい産んでくれるっす!」

「数で勝負するタイプだった!」

「こけーっ!」

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