第140話 もっふもふっす

「「「めえ~」」」

「羊たちも大きいね……」

「もっふもふっす! お陰で羊毛がいっぱい取れるっすよ!」

「「「ひひーん!」」」

「馬も……」

「どの子も馬力が凄いっすよ! あとこの巨体なのにめっちゃ速く走れるっす!」


 牛と鶏だけじゃなく、羊や馬も巨大化していた。

 もちろん元々は普通のサイズの種のはずだ。

 この家畜小屋で育てられると、どうやら何倍もの大きさに成長してしまうらしい。


「はっ!? ということは、僕もここで暮らしたら大きくなれるんじゃ……」

「村長は家畜じゃないっすから、無理じゃないっすか? それに村長は小さい方がかわいくて良いと思うっす!」

「良くないよ!」


 僕ももう十三歳だ。

 成長期のはずなので、そろそろ一気に背が伸びてくれてもいい頃だと思うんだけど……。


「そんなことより、また家畜小屋を増築してもらえると助かるっす!」


 そんなこと、って……僕にとっては大事なことなんだよ……っ!


「今もどんどん子供が生まれてて、このままだと入れなくなるっすよ!」

「確かに子供が沢山いたよね……」


 これも家畜小屋の効果だと思うけど、繁殖速度も凄まじいみたいだ。

 加えて一匹一匹があれだけ巨大な成体になるのだから、すぐに小屋がいっぱいになってしまうのも当然だろう。


「じゃあ、とりあえず新しく十棟くらい建てておくよ。あと、放牧地ももう少し広げた方がよさそうだね」

「ありがとうっす! ……あ、繁殖と言えばっすけど」

「どうしたの?」

「つーちゃんも繁殖してたっすよ」

「……え?」


 つーちゃんって……確か、ツリードラゴンのことだよね?







 ネルルと一緒にツリードラゴン専用となっている畑へとやってきた。


 何も作物を育てていない畑の真ん中に、巨大な木が一本立っている。

 離れたところから見ると完全に普通の大樹だけれど、よくよく見ると幹の一部がドラゴンのような頭になっていて、近づいていくとこちらに気づいて動き出す。


「~~~~~~♪」

「つーちゃん、元気にしてたっすか!」


 ネルルにかなり懐いているようで、鼻の頭を差し出し、よしよしと撫でられて喜んでいる。

 枝を尻尾のように激しく振っていて、まるで犬だ。


 ちなみに元々ツリードラゴンには名前がなかったのだけれど、ネルルが「つーちゃん」と呼び始めてから最近はそれが定着しつつあった。

 当人、いや、当木も気に入ってるみたいだからいいけど……。


「ほら、見るっす、村長。小さな木が生えてきてるっすよね」

「ほんとだ」


 言われてみると、畑のあちこちから若木が生えてきていた。

 大きさはまちまちで、まだ小さな芽でしかないものもあれば、僕の身長くらいの高さまで成長しているものもある。


「でもこれ、普通の木じゃないの?」


 ツリードラゴンと違って、ドラゴンみたいな頭部は見当たらない。

 一見するとただの若木だった。


「ほら、見るっすよ」


 だけどネルルが近づいてみると、若木がくねくねと動き始めた。


「う、動いてる……」


 しかも比較的大きな若木に至っては、葉っぱや幹を動かすだけでなく、その場から移動することもできるようだ。


「トレントに近い種っすからね。成長するまではトレントと見分けがつかないみたいっす」

「へえ。わっ、何か身体に巻き付いてきたんだけど……」


 近づいてきた若木が、僕の脚や胴体に絡みついてきた。


「じゃれてるっすよー」

「じゃれてるんだ……ちょっと苦しいんだけど……」


 何本もの若木が纏わりついてきて、まるで縄で厳重に縛られているみたいになってしまった。

 お陰で身動きが取れない。


「た、助けて……」

「~~~~!」

「あ、離れた」


 ツリードラゴンが窘めるように枝を振ると、若木は一斉に僕から離れた。

 どうやら親の言うことをちゃんと聞くらしい。


「とっても良い子たちっす!」

「良い子なのかな……?」


 今のところ若木はニ十本近くいるという。

 この様子だとまだまだ増えそうだし、親のツリードラゴンくらい大きくなってしまったら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る