第141話 任せてくだせえ
俺はアレク、冒険者だ。
現在は荒野に築かれた新しい村を拠点にして稼いでいる。
まぁ、村と言ってはいるが、実際には大都市と言っても過言ではない規模だ。
俺たちが訪れた頃はまだ賑わっている宿場町、といったくらいだったのだが、そこから異常な速度で発展していき、人口も建物も大きく増えていた。
もはや元が何もない荒野だったとは思えない。
それもこれも、あの村長の力だ。
マジでルーク村長には感謝しかない。
この村に来たことで、俺たちはパーティ全員が貴重なギフトを授かることができたし、ダンジョンで手に入る素材やアイテムなどを売って以前の何倍も稼がせてもらっている。
そのお金で装備も一新した。
もちろんすべて村のドワーフたちが作った武器や防具だ。
彼らの武具は非常に高性能で、恐らく王都でも簡単には手に入らないだろう。
噂を聞きつけ、俺たち以外の冒険者も沢山この村にやってきた。
そこでルーク村長は、冒険者を管理したり素材の買取りなどを行ったりするための機関を設立した。
この国では初となる「冒険者ギルド」である。
この冒険者ギルドでは、実績に応じて冒険者のパーティがランク付けされている。
駆け出しのEランクから始まり、D、C、B、Aとランクが上っていく。
そして俺たちのパーティは現在、唯一のAランクパーティだった。
「おい、あれ、Aランクパーティの『紅蓮』じゃねぇか?」
「ほんとだ。またダンジョンの最下層記録を更新したんだってな」
そんな声が聞こえてきて、俺は思わずニヤついてしまう。
「気持ち悪いわね。なにニヤニヤしてんのよ?」
「ハゼナ、そう言ってるお前もめちゃくちゃ顔が緩んでるぞ?」
「そそそ、そんなことないわっ?」
『紅蓮』というのは、俺たちのパーティ名だ。
ギルドに登録するために名前が必要だということで、みんなで考えて付けたのだが、同業者たちに知れ渡っていた。
この村に来るまでは、まさかこんなに活躍できるようになるとは思ってもみなかった。
特に俺なんてもう38歳だしな。
冒険者として限界を感じつつあったほどだ。
「……名声など、俺には……不要……」
「右に同じである。周囲の声など雑音に過ぎぬ。煩悩を払い、ただ行くべき道を邁進するべし」
と、何やら硬派ぶった言葉を口にしているのは、メンバーのディルとガイだ。
ディルは索敵や隠密行動などに長けた狩人で、ガイは治癒だけでなく棍を使った戦闘もできる僧兵である。
それだけ聞くと、二人とも真面目に冒険者をやってそうだが。
……俺は知ってるぞ?
お前らがいつも飲み屋で何人もの女を侍らせ、チヤホヤされて鼻の下を伸ばしているのを。
さて、そんな俺たちだが、最近はもっぱらダンジョンの最前線を攻略していくことに注力している。
ダンジョンというのは少しずつ拡大していくものだ。
だが通常それは何年もかけて行われるのだが、どういうわけか、この村のダンジョンはかなりの速さで拡張が進んでいた。
俺たちが来た頃はたったの五階層しかなかったのが、今ではニ十階層以上もある。
多くの冒険者が浅層で活動している中、俺たちは最下層記録の更新を狙って積極的に深層に挑戦していた。
せっかくギフトを手に入れたのだから、もっと上を目指したい。
そう思って、リスクも高いが、やりがいのあるチャレンジを続けているのだ。
今日もこれから深層へと潜る予定だった。
「カムル、今日も頼んだぞ」
「へい、任せてくだせえ」
ダンジョンを攻略するに当たって、俺たちは『迷宮探索』というギフトを持つ村人、カムルを雇っている。
こいつがいるかいないかで、攻略難度が段違いなのだ。
雇いたがるパーティは幾らでもいるため、なかなか予約が取れない状態なのだが、なぜか俺たちのパーティには優先的に来てくれる。
「いつも助かるわ」
「へ、へい! たとえ未踏破階層だろうと、あっしにとっては庭にみたいなもんすから、大船に乗った気持ちでいてくだせえ!」
……もしかしてこいつ、ハゼナに気があるんじゃないだろうな?
カムルは俺と同じで独身の38歳。
ハゼナは18歳だ。
しかもお世辞にも見た目がいいとは言えないカムルに対して、ハゼナは冒険者たちの間で秘かにファンクラブができるくらい人気がある。
どう考えても無理筋だと思うんだが。
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