第142話 あの村長だからな

 ここ荒野の村のダンジョンのことを、俺たち冒険者は『転変迷宮』と呼んでいる。


 その最大の特徴は、五階層ごとに雰囲気がガラリと変わる点だ。

 魔物やトラップの種類などに加え、環境も大きく変化するので、その度に違った対策が必要になる。


 第一階層から第五階層までは、最もオーソドックスな洞窟型だ。

 主にゴブリンやコボルトといった魔物が出現し、初心者には最適な狩場である。


 ゴブリンが持っている錆びついた武器や、コボルトの毛皮といった素材が人気だ。

 錆びついた武器は鋳潰して新たな武器や金属製品の材料になるし、毛皮は衣服などに使われている。


 第五階層には、エリアボスと呼ばれている強敵、エルダーコボルトが待ち構えている。

 コボルトの上位種で、多くの新米冒険者たちにとって最初の大きな難関だ。


 もっとも、襲い掛かってくるボスから逃げ、次の階層に行くこともできる。

 また、エリアボスは倒されてからリポップするまで一時間かかるため、前の冒険者が撃破していたら遭遇できない場合もあった。


「むうんっ!」

「グアアアアアアッ!?」


 俺たちレベルになるともう瞬殺できる。

 ガイが棍で頭を叩き潰し、エルダーコボルトが地面に崩れ落ちた。


 ディルがナイフを使い、慣れた手つきで毛皮を剥ぎ取っていく。

 エルダーコボルトの毛皮は高く売れるため、必ず持ち帰っている。

 少々荷物が増えても困らないのは、カムルが荷物持ちも担ってくれているからだ。


 そしてエリアボスを倒した先には安全地帯がある。

 ここは魔物が出現しない場所で、簡単な宿泊施設があるため寝泊まりすることもできた。

 しかも最近はここに飲食店ができたりしていて、食事まで可能になっている。


 俺たちは素通りだ。

 今日中にもっと深いところまで潜るつもりだった。


 第六階層から第十階層までは、同じ洞窟型であっても、草木や苔で覆い尽くされた緑の多いエリアになっている。

 蜘蛛の魔物タラントや蟻の魔物アーマーアントなど、昆虫系の魔物が多く生息しており、そのせいか女性冒険者たちからは不評だった。


 防具の素材になるアーマーアントや、蜂蜜が取れるマッドビーという蜂の魔物の狩りが人気である。

 一応、薬草類も採れるようだが、基本的な薬草は村の畑で大量に栽培されているため、あえてここで薬草採取を行おうとする冒険者はいない。


 五階層ごとにエリアボスが配置されており、第十階層のエリアボスはタラントの上位種であるマザータラント。

 巨大蜘蛛の巣から採れる蜘蛛の糸は非常に丈夫で、これも高い値段で売れるのだが、採取が面倒なので俺たちには用がない。

 マザータラントは近づかない限り襲い掛かって来ないこともあって、戦わずに先へ進む。


 その先もやはり安全地帯になっている。

 少し休憩しただけで、俺たちはすぐ次の階層へと降りた。


 第十一階層から第十五階層までは遺跡型となっている。

 比較的トラップの多い石造りの迷宮で、ミノタウロスが頻繁に出没するため、常に多くの冒険者たちで賑わっているエリアだ。

 ミノタウロス肉は相変わらず安定して高い需要がある。


 そして第十五階層で待ち構えるエリアボスはブラックミノタウロス。

 その名の通りミノタウロスの上位種で、こいつの肉は通常のミノタウロスよりさらに高値で取引される。


 ただ、討伐の難易度を考えるとそこまで旨みがないこともあり、積極的に狩りを行っているのは一部の冒険者パーティくらいだった。


 ちなみに以前はもっと浅層でミノタウロスを狩ることができた。

 ただ、あまりに乱獲され過ぎてしまったせいか、現在は行き来するのに相応の時間が必要な階層まで降りてこなければならなくなっている。


 こうしたことは、このダンジョンでは珍しくない。


「村長がダンジョンマスターと知り合いらしいからな。恐らく状況に合わせて調整しているんだろう」

「そんなダンジョン、他じゃ聞いたことないけど……」

「まぁあの村長だからな」

「まぁあの村長だものね」

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