第137話 詳しく教えてください

「ねぇ、あのホテルもう利用した?」

「ホテル?」

「ほら、最近ルーク様が作ってくださった」

「ああ、あの。使ってないわよ。うちはまだ子供がいないし、家で十分だもの」

「絶対使うべきだわ! だってあのホテル、本当に凄いのよ。うちの旦那、あたしがどんなに頑張ってもずっとふにゃふにゃだったのに、ホテルに入った瞬間からもうギンギンのビンビンで! あんなに大きくなってるの初めて見たから、あたし、びっくりしちゃって!」

「え? そんなことあるの?」

「あるのよ! 隣の奥さんだって言ってたわ。いつもより一回りも大きくなってたって!」

「す、すごいわね……」

「しかもそれだけじゃないのよ。女の方も気持ちが高ぶっちゃうみたいで……ポッ」

「ごくり……」

「それ以来、夫婦仲もよくなっちゃって。あそこに行けば、きっと倦怠期の夫婦だって新婚同然のラブラブになると思うわ」

「わ、私たちも行ってみようかし――」


「その話、詳しく教えてくださいッッッ!」


「「み、ミリア様!?」」


 まさかそんな施設があったなんて……っ!

 村の奥さんたちの話を偶然耳にしたわたくしは、思わず彼女たちの会話に割り込んでいました。


「ご、ご存じなかったのですか? 最近、ルーク様が地下街を作ってくださったと思うのですが、そこに……」

「あの地下街にあるんですね!? ありがとうございます!」

「あっ、ミリア様…………行っちゃった」


 二人から詳しい情報を得たわたくしは、その地下街へと走りました。

 その出入り口となる階段は、村の中心から少し逸れた、目立たない場所にありました。


 階段を駆け下りていくと、そこは両側に飲み屋が並ぶ地下道となっています。


「ここが……」


 その中に飲み屋とは違う雰囲気の入り口を発見し、わたくしはゴクリと喉を鳴らしました。


「おい、こんなところに連れてきて、何をしようってんだよ?」

「いいから、ついてきなさいよ」


 そこへ背後から二人組が何やら言い合いながらやってきました。

 三十代後半くらいの夫婦のようですが、どうやらあまり仲が良くないようです。


 二人はホテルの入り口前で立ち止まりました。

 何かに気づいたように、旦那さんがハッとします。


「ここって……もしかして……」

「たまにはいいでしょ? ほら、最近ずっとご無沙汰だったし……」

「か、帰る! ぐべっ?」


 回れ右して逃げようとした旦那さんの首根っこを、奥さんが掴みました。


「に、が、さ、な、い、わ、よ?」

「や、やめろ! 離してくれ!」

「どうしてそんなに嫌がるのよ? 若い頃はあんなに愛してくれてたのに……」

「若い頃は細かったからな! あれからぶくぶく太りやがって! もはや別人じゃねぇか! この村に来てからさらに太ったしよ!」


 酷い言い様だとは思うものの、確かにあの奥さん、ちょっと太り過ぎかもしれません。

 何せ身体の厚みが、旦那さんの軽く倍以上はあるのです。


 その太い腕には相応の力があるようで、旦那さんが必死に逃げようとするもビクともしません。

 そればかりか、奥さんにの怪力に抗うことができず、旦那さんはホテルの中へと引き摺られてしまいました。


 さすがにあれでは連れ込んだところで……と思いきや、中に入った瞬間、なんと旦那さんの態度が急変したのです。


「そ、そうだな……久しぶりに……いいかもしれないな……」

「っ! あなた!」

「ぐぼっ!? つ、潰れる潰れる!」


 そこからは仲睦まじい様子で、ホテルの奥へと入っていってしまいました。


「こ、これさえあれば……ルーク様も……ぐふふふふ……」



    ◇ ◇ ◇



「えっ……?」


 デフォルトで使えるマップ機能をたまたま見ていると、突然すぐ近くに赤い点が現れた。

 普通の村人は黒い点で表示されるので、この赤い点は敵対的な人物や侵入者である証拠だ。


 カーソルを合わせてみると、〈変態〉という文字が現れる。


「変態……?」


 どういうこと?

 いや、そんなことより、この赤い点こっちに迫ってきている!?







「ハァハァ……る、ルーク様……少し、わたくしとお散歩しませんか……?」


 って、ミリア……?

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