第345話 あれは恐らく海ではなく湖だ

 ゴバルード共和国の使者団は、最初の訪問の後も幾度となく村にやってきた。

 そのうちこの村が直接、砂漠や東方の国々との貿易を行っていることを知った彼らは、ぜひ自国も仲間に入れてほしいと願い出てきて、ゴバルードとこの国を結ぶ鉄道を敷設することになった。


「ところでルーク様、ぜひとも一度、我が国にお越しいただけないでしょうか?」

「え? ゴバルードに?」


 イアンさんからの提案に、僕は思わず聞き返す。


「はい。我が国の首相も、ルーク様にお会いしたいと申しておりまして」


 共和国であるゴバルードには国王がいない。

 代わりに議会の中から選挙で選ばれた人が、一定の期間、国のトップを務めるそうだ。


 うーん、正直、偉い人に会うのはあんまり好きじゃないんだけどなぁ……。

 まぁ最近しょっちゅう会ってるけど。


 ともあれ、せっかくの招待を断るわけにもいかない。


「楽しそうじゃない! 私も行きたいわ! 連れていきなさいよ!」


 セレンもこう言ってることだし……。


 そんなわけで、僕たちはゴバルードへ観光(?)に行くことになった。


「国境まではやはりテツドウで移動されるのが早いかと。そこからは首都まで馬車でご案内させていただきます」

「あ、空を飛んでいくので大丈夫ですよ」

「空を……?」


 馬車を使うより、いつものように公園で空を移動する方が早く着けるはずだ。


 ゴバルードに赴くことになったのは、僕とセレン、フィリアさん、セリウスくん、ノエルくん、それからダントさんとブルックリさんの計七名。


 ダントさんはかつてアルベイル領北部の代官を務めていた人で、現在はこの村の外交関係のリーダーを担ってくれている。

 一方、ブルックリさんは村の商売や経済に関するリーダーだ。


 砂漠や東方の国々との貿易に関して、具体的なことは彼らが進めてくれている。

 今回せっかくゴバルード共和国に赴くのだから、二人を連れていった方がいいだろうと考えたのだ。


 ちなみにミリアは最近色々と忙しいようで、今回は同行できなさそうだった。

 ……それをセレンが喜んで、また喧嘩になったのだけれど、それはいつものことなので置いておくとしよう。


「まずは国境まで瞬間移動で行きますね」


 案内人のイアンさんも含めて、全員で国境付近まで飛ぶ。


「ここはタリスター公爵領ね」

「うん。ゴバルード共和国は、タリスター公爵領と接しているから」


 タリスター公爵領から南に行けばバルステ王国で、西に行けばゴバルード共和国だ。

 つまりタリスター公爵領は、二つの国に対する国防を担うような位置にあるということになる。


 ただ、一度この国に攻めてきたバルステと違い、ゴバルードはあまり領土拡大への野心がないらしい。


「我が国は共和制となって以降、一度も他国を侵略したことはないのです」


 イアンさんが誇らしげに言う。

 好戦的なバルステとは対照的だ。

 そのバルステとゴバルードもまた領土が接しているのだけれど、バルステ側に何やらゴバルードへの大きな恩があるらしく、両国は友好関係にあるそうだ。


「ではこの公園に乗ってください」


 その場で作り出した公園の上に全員が移動する。


「飛びますね」

「っ!? ほ、本当に浮いています!?」


 公園を宙に浮かせると、イアンさんが目を見開いた。


「そ、空を移動していく……っ! こんなことまでできるなんて……」


 国境を超えてゴバルード国内に入る。

 それからしばらく空を行くこと小一時間。


「見えてまいりました。あれが我が国の首都、メイレンです」


 イアンさんが前方を指さして告げると、セレンが興奮して叫ぶ。


「すごい! 海の中に街があるんだけど!?」

「いや、セレン殿。あれは恐らく海ではなく湖だ」


 フィリアさんが訂正する。


「えっ? あんなに大きいのに!?」


 どうやらゴバルードの首都は、大きな湖の中に存在している島にあるらしい。

 しかもその島と湖岸が、長く延びる砂州によって繋がっていた。


「せっかくだし、あの砂州のところに降りてみるね」


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