第346話 すごい歓迎っぷりね

 公園は空の上に待機させておき、湖岸と島を結ぶ砂州へ瞬間移動で降りる。


「ねぇ、この下、思ってたよりも硬いんだけど?」

「ほんとだ。もしかしてこれ、何か石のようなものの上に、砂が堆積してるような感じ……? って、あそこ、何か大きく盛り上がってるような?」


 どうやらここはただの砂州ではなさそうだ。


「その通りです、ルーク様。実はこの砂州の元となっているのは、かつてこの湖に生息していたとされる巨大な水竜の身体なのです」

「水竜の……?」


 軽く足元の砂を掘ってみると、現れたのは石などではなく、直径一メートルはあろうかという大きな鱗の数々だった。

 さらに盛り上がっているように見えたのは、どうやら巨大な骨らしい。


「なんていう大きさなんだ……」

「すごい」


 セリウスくんとノエルくんが、圧倒されたように呻く。


「頭部が失われているため、正確なサイズは定かではありませんが、少なくとも全長一キロは超えていたと推測されています」

「「「一キロ!?」」」


 さすがに規格外すぎる大きさだ。

 蛇のように細長い形状をしていたみたいだけれど、それでもこんな魔物が生息していたなんて……。


「推定では死後、五百年以上は経過していると言われています」


 五百年が経っても鱗が残っているのか。


「五百年となると、さすがに我々の中にも生きていた者はいないな」


 と、フィリアさん。

 ちなみにエルフたちの平均寿命は二百五十年ぐらいで、三百歳を少し超えたエルフが最長老である。







 水竜の死骸の上に砂が堆積していき、できあがったという砂州を進んで街に辿り着いた僕たちを待っていたのは、想像を遥かに超える歓待だった。


「ルーク様御一行っ! ようこそ、ゴバルード共和国へっ!」

「「「ようこそいらっしゃいませっ!」」」


 街の入り口にいたのは、軽く千人を超えるだろう人々。

 彼らの盛大で熱烈な拍手、そして空に花火が打ちあがると、音楽隊による壮大な生演奏が始まった。


 広げられた大きな横断幕には『ルーク様御一行! 大歓迎!!』と書かれてある。

 赤い絨毯の上を進んでいくと、


「よくぞお越しくださった、ルーク様御一行! 私はこの国の首相を務めるペレサと申します! なにとぞよろしくお願いいたします!」


 首相って、確かこの国のトップだよね?


「なんだかすごい歓迎っぷりね」

「う、うん」

「これはもはや他国の王をお迎えするようなレベルでしょう」

「え、そんなに?」


 ダントさんの指摘に、僕は面食らう。

 さらにブルックリさんが言った。


「街の入り口にまで一国の長が出迎えに来られるなど、普通はありませんよ。それだけルーク様の訪問を重要視しているということ」


 そこから僕たちは、怒涛の如く持て成された。


 まず案内されたのは、作られたばかりと思われる豪華な建物だった。

 僕が今の宮殿を作る前に住んでいた「家屋・大」を超える敷地面積があり、よく整えられた庭も美しい。


「こちら、皆様専用の宿泊施設となっております」

「もしかして貸し切りですか?」

「そうです。皆様のためにご用意いたしましたから」

「え? それって……」


 イアンさんに訊いてみると、なんと今回のためだけに新しく建てたらしい。

 もちろん僕のようにギフトで手軽に建設できるはずもなく。


「国中から選りすぐりの大工を集めさせました。設計もこの国随一の建築家によるものです」

「そ、そうなんですね……」

「敷地内にはレストランや大浴場はもちろん、劇場もご用意してあります。そちらではぜひ我が国の伝統芸能をご覧いただきたく存じます」


 寝室は一人一部屋が用意され、どれもスイートルームのような広さで、調度品も一級のものばかり。


 そしてこの施設に、次から次へと国の有力者たちの来訪があった。

 しかもそれぞれが競うように豪奢な贈り物を携えている。


「なんていうか、歓迎の勢いが凄すぎて、逆に窮屈な感じね……」


 自由に街中を散策できると思っていたセレンが、不満そうに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る