第347話 つい本音が出ちゃって

 施設内に設けられた劇場では、様々な演し物が披露された。


 その中でも特に印象的だったのが、美少女たちによる舞踊だ。

 民族衣装に身を包み、荘厳な音楽に合わせて優雅に舞い踊る。


 恐らく見目麗しい子ばかりを集めたのだろうけれど、ノエルくんが思わず「かわいい……」と呟いていた。


「彼女たちはこの国が誇る舞踊集団〝舞媛〟の選抜メンバーたちなのですが、ぜひルーク様とお話をしたいと申しておりまして。申し訳ありませんが、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」

「え? 別に構わないですけど……」


 披露の後にイアンさんから提案されて、僕は頷く。

 セレンが鋭い目つきでこっちを睨んでいるけど、ここで断るのも失礼だし、仕方ないでしょ。


 控室のようなところでしばらく待っていると、そこに十五人ほどの少女たちが入ってきた。


「っ! ルーク様よ!」

「きゃっ! やっぱりすごくかっこいいわ!」

「噂には聞いてたけど、本物の方がずっと素敵よね!」


 僕を見るなり、そんな黄色い声を上げる少女たち。


「もしかして今、かっこいいって言われた……?」


 いつも「かわいい」ばかり言われていて、「かっこいい」と言われたことなんてたぶん一度もなかった。

 聞き間違いだろうかと思っていると、


「わっ、聞こえちゃってたみたい! 恥ずかしいっ……でも、つい本音が出ちゃって……」


 どうやら本当に言っていたみたいだ。


「確かにかっこいいよね!」

「うんうん! あんなにかっこいい方、見たことないかも!」


 さらに他の子たちも次々と言い始める。

 しかもそれだけじゃなかった。


「小柄な方って聞いていたけど、全然そんなことないわよね?」

「むしろ高い方じゃないかしら?」


 僕の背が高い方……?

 さすがにそれはお世辞じゃないかと思ったけど、よく見てみると、彼女たちは全員が僕よりも背が低い。


 いやいや、そもそも彼女たち、まだ十~十二歳くらいなんでしょ?

 どうせ僕の見た目から同い年くらい思ってて、それで背が高いと勘違いしてるってオチでしょ、きっと。


「ちなみに彼女たちは全員十三~十五歳です」


 イアンさんがこっそり教えてくれた。


「え? じゃあ、僕と年齢は変わらない……?」

「そうです、ルーク様(なにせ、このためにあえてルーク様よりも背の低い少女たちを選抜したのですから!)」


 にっこり微笑みながら頷くイアンさん。


「ルーク様、すごくかっこいいです!」

「背が高くて素敵!」

「同年代とは思えないくらい大人っぽいわ!」

「きっと色んな経験をされてるからだと思うけど、とっても男らしい方ね!」


 かっこいい。

 背が高い。

 大人っぽい。

 男らしい。


 異国の美少女たちから投げかけられる賛辞の数々。


「ふ、ふふふふ……もしかして僕って、自分が思っているよりも、かっこよくて男らしいのかも……」


 思わず顔がニヤけてしまう。


 と、そんな僕の肩に、ぽん、と手が置かれた。

 セレンだ。


「……ルーク、あんた、あいつらに騙されてるだけよ。現実を見なさい」

「ち、違う、そんなはずは……」

「セリウス、横に立ってあげなさい」


 セレンに命じられて、セリウスくんがすぐ隣にくる。

 僕とほぼ同い年で、以前はほとんど身長が変わらなかったはずなのに、ここ一年ほどで一気に背が伸びて、見下ろされる形になってしまっていた。


「やっぱり僕は小さいのか……」

「そ、そんなことありませんよ、ルーク様!」


 イアンさんが慌ててフォローしてくる。


「端から見れば、お二人の身長はほとんど変わりませんから!」

「イアンさんのおっしゃる通りよ!」

「そんなに差なんてないわよね」

「むしろ存在感のせいか、ルーク様の方が高く見えるかも!」


 さらに美少女たちの援護。

 するとセレンが不愉快そうに鼻を鳴らして、


「ノエル、隣に」

「お、おれ……?」


 僕の近くにやってくるノエルくん。

 今や二メートル近い身長があるノエルくんから見たら、僕なんてもはや子供だ。


「うぅ……これが現実か……」

「ルーク様!? だ、大丈夫です! 見た感じ、お二人にそこまで差はないですから!」

「わ、私もそう思わなくもないかもしれないですっ!」

「並んでみても、ほとんど差が分からないかもしれない気がするほどよねっ!」

「なんならルーク様の方が高いかもしれない可能性もなくないかもっ?」


 いやいや、さすがにそのフォローは無理があるでしょ!?


 やっぱり僕は背が高くもなければ男らしくもないらしい。

 結局、現実へと引き戻されてしまうのだった。


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