第348話 中身まで素敵だなんて
荒野の村の代表として、ダントとブルックリの二人は、ゴバルード共和国の政府高官たちと話し合いを行っていた。
「なるほど、そういうことでしたか……」
「道理で異常なほどの歓迎ぶりだと思っていたが」
ゴバルードの歓迎に違和感を覚えていた彼らが、高官たちと問い詰めた結果、観念して詳しい事情を話してくれたのだった。
「心配せずとも、そのときになれば、ルーク様は必ず力を貸してくださるはずです」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。なにせあの方は救世主なのだからな」
「救世主……?」
首を傾げる政府高官たちの前で、二人はあるものを取り出した。
それはとある書物で。
「これは……?」
「ルーク様のこれまでの軌跡を書いた本です。お読みいただければ、あの方の素晴らしさがより一層理解できるでしょう」
ダントとブルックリ。
彼らもまた、ミリアによって深く教化された、筋金入りのルーク教信者たちなのだった。
◇ ◇ ◇
ゴバルード共和国で大いに歓待され、当初の予定通りの日数を過ごした僕たちは、村に帰ることになった。
「鉄道の方はすでに完成していますので、いつでも簡単に行き来ができますよ」
「いやはや、あのようなものを本当にこの短期間に作ってしまわれるとは……。しかもご本人はずっと我々のもとにいらっしゃったはず……」
驚愕しているのは、見送りに来てくれたペレサ首相だ。
「影武者に作らせましたので」
「……と、とにかく、この度は貴重な時間を割いていただいて、我が国にお越しくださり本当にありがとうございました」
一国のトップとは思えないくらい、ペレサ首相は腰が低い。
僕のことを王様か何かと勘違いしてるんじゃないだろうか……。
ちなみにこの期間、ダントさんとブルックリさんは、高官たちと色々と話し合ってくれていたみたいだ。
「ルーク村長、実は村に移住したいという方たちがおりまして」
そう切り出してきたのはダントさんだ。
「移住? 一応、来る人は拒まない方針ですけど……」
遠く離れた荒野の村に、わざわざ移り住みたい人なんているのだろうかと思っていると、
「「「ルーク様! 私たちを連れていってください!」」」
〝舞媛〟の女の子たちだった。
「え? 何でまた……? もしかして国からの指示?」
本人たちが望んでというならともかく、無理やり言わされているのだとしたら可哀そうだ。
この世界では奇麗ごとかもしれないけど……。
「そうではありません!」
「もちろん私たち自身の意思です!」
「我が国の伝統芸能を、ぜひ異国に伝えていきたいと思っていたんです!」
「なるほど……」
自分たちが誇る伝統を、異国の人にも知ってもらいたいという願望は自然なものだろう。
そういうことならと頷こうとしたところへ、
「は? ダメに決まってるでしょ?」
割り込んできたセレンが一蹴。
結局、彼女たちを連れて帰るのはお断りすることになったのだった。
……のだけれど。
「「「ルーク様! ぜひこの村に住まわせてください!」」」
「何でいるの!?」
村に戻ってから数日後。
どういうわけか、彼女たちが村にやってきてしまった。
「テツドウというものを使ってやってまいりました」
「この村は移住者を受け入れておられるんですよね?」
「異国の人間でも移住できるって聞きました!」
考えてみたら、この村とゴバルード共和国を鉄道で繋げたのだ。
彼女たちがその気になれば、いつでも来ることができる。
砂漠や東方からの移住者も受け入れているわけで、彼女たちだけを突っぱねるわけにもいかない。
「じゃあ、劇場で働いてもらおうかな……」
「ありがとうございます!」
「さすがルーク様! なんて男らしい性格なの!」
「かっこいいだけじゃなくて、中身まで素敵だなんて!」
移住を認めると、口々に賞賛の声を上げながら喜ぶ彼女たち。
……うん、もしこれが全部お世辞なのだとしても、悪くないかもしれない。
「ただし、なるべくセレンには見つからないようにね?」
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