第226話 その言い方はやめて
セレンの優勝宣言を受けて、ゴリちゃんは興味深そうに笑った。
「うふふ、参考までに聞かせてもらってもいいかしら? アタシの攻略法というのを」
どう見ても余裕たっぷりだ。
ほとんど無敵と言っても過言じゃないゴリちゃんに、本当に攻略法なんてあるのだろうか。
誰もが注目する中、セレンは言った。
「それは……攻撃しないことよ!」
……どういうこと?
「あらあら、うふふ……」
僕には理解不能なセレンの発言だったけれど、不思議なことにゴリちゃんは少し感心したように微笑んだ。
もしかして正解だったのだろうか。
「でもね、残念だけれど、アナタのその戦略には大きな欠点があるわぁ。それはね……」
次の瞬間、ゴリちゃんが地面を蹴ってセレンに躍りかかっていた。
「アタシは素のままでも十分に強いってことよぉっ!」
繰り出される拳の連打。
セレンはそれをどうにか飛び下がりながら躱していくけれど、
「無駄よぉっ!」
「くっ!?」
その一つが掠め、それだけで大きく吹き飛ばされてしまう。
「ふふふ、弟ちゃんの方なら避け切れたかもしれないけれど、アナタじゃ難しいわん」
「がはっ……さ、さすがの威力ねっ……」
ゴリちゃんが言う通り、セレンも十分過ぎるほど身軽だけれど、それでも魔法で風を操れるセリウスくんには及ばない。
超ヘビー級であるゴリちゃんの拳は、今みたいに少しでも掠めただけで大ダメージだ。
「だけど……その代わり私にはこの魔法があるわ!」
そのときゴリちゃんがブルブルと巨体を震わせた。
リングは先ほどから白い煙のようなもので覆われているけれど、恐らくあれは冷気だ。
「なるほど、準決勝のときみたいに、アタシを凍らせようってわけ? うふふ、だけど、その前に倒して――っ!? か、下半身が、もう凍ってきている……っ!?」
ゴリちゃんが目を見張る。
セレンの魔法が思っていた以上に強力で、あっという間に下半身が固まりかけていたのだ。
それでもゴリちゃんが前に出ようとすると、つるつると地面が滑って上手く歩けない。
だけどゴリちゃんには、準決勝でセリウスくんを倒したあの技がある。
上半身さえ動けるなら、まだ闘気の砲弾を放つことができるはずだ。
と思ったけれど、
「無理よ! 今のあなたはあれを使えないわ!」
セレンが断言する。
「これまでの戦いを見ていて分かったのよ! あなたは攻撃を受ければ受けるほど力を増すってことをね!」
攻撃を受ければ受けるほど力を増す……?
確かに思い返してみると、アレクさんの大剣で拳が傷ついたり、セリウスくんに身体を何度も斬られたりすると、痛がるどころかすごく喜んでいた。
……単にMだからじゃないの?
でも確かに、どちらのときも負傷したことで、より強くなっていた気がする。
「下手に攻撃したら、セリウスの二の舞だもの!」
「うふふ、確かにアナタの言う通りよん。アタシは攻撃を受ければ受けるほど強くなる……生粋のドMなのよぉ♡」
それは別にドMの性質じゃないと思う。
「特にアナタの弟ちゃんを倒した技は、たぁっぷり前戯してもらって、アタシの気持ちが高ぶっていないとダメなのよねぇ……」
だからセレンはあえて剣を捨てたのか。
そんなのよく見抜いたなと思うし、思い切って武器を捨てちゃう勇気もすごい。
何よりあの猪突猛進気味なセレンが、こうして戦略的に戦っているなんて……。
うんうん、セレンも成長したよね。年上だけど。
気づけばゴリちゃんの下半身は完全に凍り付いていた。
もはやリング上を移動することすらままならない。
「勝負あったわね!」
「……本当にそうかしら?」
「?」
ゴリちゃんは不敵に笑った。
「うふふ、知ってるかしら? 気持ちよくなるのって……一人でもできちゃうのよねぇっ!」
拳を強く握り締めたゴリちゃんは、一体何を思ったか、
ボゴッ!!
自分の顔面を殴ってしまった。
さらに二発目三発目と、自分を容赦なく殴り続けるゴリちゃん。
「な……っ!? ま、まさか、自傷行為……っ!?」
ゴリちゃんは自分自身を攻撃することで、無理やり力を引き出そうとしているのだ。
「そうっ! 自慰行為よぉっ!」
その言い方はやめてえええええっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます