第370話 こちらは些細なことですが
あの後、ゼルスは少年の率いる一団が、主にセルティア王国の人間たちで構成されていることを知った。
いずれは侵略を仕掛ける予定だったとはいえ、帝国から大きく離れた位置にある国であり、なぜこのタイミングで帝国に牙を剥いてきたのか、現在もまるで見当がついていない。
しかもゼルスは今、少年が治めているという都市へと連れてこられ、その牢屋に放り込まれている。
少年が言うにはセルティア王国内でも辺境の地にあるそうだが、移動時間は本当に一瞬のことだった。
「一瞬で機竜の外に出たことといい、間違いなくギフトの力……突然、宮殿内に現れたことも、それで説明がつく……まさかそのようなギフトが存在しているとは……」
戦慄と共に理解するゼルス。
だが一方で、彼はまだ自分が置かれた状況を信じることができずにいた。
「一体これのどこが『豪運』だ……っ! このような場所に捕らわれるなど、どう考えても最悪の事態だろう……っ!?」
と、そのとき、彼のもとへなぜか一人のメイドがやってきた。
「いいえ、あなたは非常に運がいいですよ」
「何だとっ?」
その柔和な微笑みは、まるで聖母のようだったが、ゼルスはなぜか背筋のあたりがぞくりとするのを感じた。
彼女は一点の曇りもない眼で、告げる。
「なぜなら、これからルーク様の忠実な信奉者になることができるのですから」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
自分でも無意識のうちにゼルスは絶叫していた。
◇ ◇ ◇
皇帝と大臣を押さえたことで、帝国はあっさりと降伏。
一時は宮殿を多国籍軍によって完全に占領された。
これにより侵略中だった国々へ、帝国は敗北を宣言する。
すぐさま軍を撤退させた。
その後、各国の代表団が監視する中、十歳の皇帝スルダンはその座を降り、代わりに新たな皇帝が選出されることに。
そして新皇帝の座に就いたのは、大臣の勢力によって帝都から追放されていたスルダンの腹違いの兄、アゼルダン=クランゼールだった。
二十五歳の彼は、帝都追放後も大臣の勢力に命を狙われ続けていたようで、幾度となく暗殺の危機を乗り越えてきたらしい。
それもあってか、帝国の君主に相応しい気概と胆力を持った人物だった。
彼は属国化した国々を開放することを宣言。
さらには、各国が帝国軍によって受けたあらゆる被害に対して、賠償を負うと誓った。
被害を受けた国の中には当初、帝国を攻め返せとの意見を持つ国もあった。
しかし新皇帝の誠実な対応により、次第に態度を軟化させ、最終的には平和的な合意を交わすに至った。
なお、僕たち荒野の村のメンバーの大半は、帝国が敗北を宣言した直後に村に戻ったけれど、ダントさんは帝国に残り、戦後処理が円滑に進むよう色々と裏で動いてくれたらしい。
前述したのは、彼からの報告をまとめたものである。
「後のことを丸投げしちゃってすいません、ダントさん」
「いえ、お陰でいい経験になりました。セルティアの王宮にもサポートしていただけましたし……」
いつも僕に色々と丸投げしてくる王様だけれど、しっかりとここで恩を売っておけば、セルティア王国としても大いに株が上がると考えて、全面的にダントさんをバックアップしてくれたみたいだ。
ほんと、したたかな王様だよね……。
「もちろん今回のことで最も株を上げたのはルーク様です」
「え?」
「当然でしょう。ルーク様がいらっしゃらなければ、帝国を止めることなどできなかったのですから。とりわけ帝国の属国と化し、虐げられていた国の人々はルーク様を英雄と崇めています。復興が進んでいけば、いずれ大勢の人たちがこの村に大挙して訪れることでしょう(聖地巡礼として。しかし『ルーク様伝説』をもっと増産できるようにしなければ……)」
「えええ……」
「あ、それからもう一つ。こちらは些細なことですが」
ダントさんが何かを思い出したように手を叩く。
「村人登録の件、一時的ということで各国に許可をいただいていましたが……どの国もぜひそのままにしておいてほしいとのことでした」
どこが些細なことなの!?
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