第393話 完全に十年後の僕
ミリアの呼びかけもあって、村議会の立候補者が、定員三十名に対して四十六名集まった。
「これで一応、選挙ができそうだね」
無理やり集めた感じになってしまったけれど、とにかく村人たちが自分で選んだという形が重要なのだ。たぶん。
選挙権を持つのは、被選挙権と同様、この村での居住実績が一年以上ということにしよう。
これなら人数もそれほど多くない……いや、多いけど、でも、今この村に住んでいる人の数よりはずっと少ないので、まだ何のノウハウもない一回目としては助かる。
なお、選挙は二年ごとに行うつもりだ。
立候補者は全員、瓜二つに描かれた顔のイラストが村のあちこちに張られて、いつでもチェックできるようにした。
ガイさんとネマおばあちゃん、それにマンタさんも立候補してる……。
そして選挙は、村の中央にある広場で行われた。
あらかじめ選挙権を持つ人たち全員に投票券が配られているので、それを持って並んでもらい、紙に投票する立候補者の名前を書いて投票箱に入れてもらう。
投票券は魔力に反応する特殊な紙で作られていて、一度投票すると回収される。
投票場で本物かどうかチェックされるので、もし偽物の投票券を作って複数回投票しようとしたら、まず見つかってしまう。
「この紙、偽物じゃないか!」
「げっ、バレた!」
「あんたその顔、立候補してるマンタって男だね! ズルはいけないよ、ズルは!」
こんな感じで。
立候補者も投票権を持っているので、二度、自分自身に投票しようとしたのだろう。
マンタさん、本当にどうしようもない人だなぁ……。
ごく一部、マンタさんのようなケースもあったけれど、大きなトラブルもなく投票が終わり、開票が行われた。
ただし今回の選挙を踏まえて、選挙違反に関する法整備が必要になるかもしれない。
開票の結果、三十人の当選者が決定した。
もちろんマンタさんは落選だ。
「くそおおおおっ、何でだよおおおおおおおおおおっ!」
いや、当然でしょ……。
ちなみに今回はまだルールが曖昧だったので、一応、失格ではない。
「あたしが落選? どいつもこいつも見る目がないねぇ?」
ネマおばあちゃんも落選したみたい。
「「「(こんな議員とか怖すぎる……)」」」
うん、僕もそう思う。
「拙僧は当選であった」
え、ガイさんが当選……?
「「「(俺たちの夢、お前に託すぞ)」」」
……どうやら煩悩に塗れた男たちの組織票が入ってしまったらしい。
しかしこれも村人たちの民意なのだから仕方がない。
そうして三十人の村人たちが初代村議員に就任し、村議会がスタートしたのだった。
〈スキル「影武者生成Ⅱ」を習得しました〉
今回のレベルアップで新しく習得したスキル「影武者生成Ⅱ」。
「影武者の上位版だと思うんだけど、どんな機能が追加されたんだろう?」
〈影武者生成Ⅱ:任意の姿の影武者を生成することが可能〉
「任意の姿の影武者……? つまり、影武者の姿を変えることができるってこと?」
今までの影武者は、僕の姿形を完全にトレースしたものだった。
ていうか、影武者なんだから当然そうだよね……。
それが僕の姿じゃない影武者を作れるようになったらしい。
「それもう影武者じゃないじゃん……まぁ、試してみるとしよう。そうだね……せっかくだから、強そうな影武者がいいな! 身体が大きくて、男らしい感じ!」
イメージするのは冒険者のアレクさんだ。
そのままの姿だと、アレクさんの影武者になってしまうので、もうちょっと僕に似せるというか、僕が大きくなったらこんなふうになるという感じにして、と……。
そうして目の前に現れたのは、イメージしたままの姿の影武者だった。
「よし、完璧だ! 完全に十年後の僕! 間違いない!」
もちろんこのままでは、単に理想の別人を生み出しただけに過ぎない。
でもギフトで作ったこの影武者なら、意識を移して自在に操ることが可能なのだ。
そして影武者に意識を移すと……。
「すごい! まるで僕自身が本当に男らしく成長したみたいだっ!」
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