第394話 今まで一度もなかった

 影武者生成Ⅱのスキルを利用し、僕は男らしい大人の姿になった。


「やった! 本当に理想の姿になれた!」


 男らしくなった見た目とは裏腹に、思わず子供のように喜んでいると、


「ほう、お前、なかなか強そうだな? あまり見かけない顔だが、もしかしてこの村に来たばかりか?」


 急に声を掛けられた。


「え?」

「俺はこの村を拠点にしている冒険者のボレルだ」


 どうやら僕のことを冒険者と勘違いしているらしい。

 アレクさんをイメージして作った影武者なので、いかにも冒険者といった格好をしているからだろう。


「お前の名は?」

「えっと、僕、いや、俺は……ルイスだ」


 適当な名前を言って誤魔化す。


「あんたの言う通り、この村に来たのは初めてだ」


 せっかく勘違いしてくれているので、冒険者として通すことにした。


「それならめちゃくちゃ驚いただろう? こんなところにこんな大都市があるなんてよ。俺が来たのは半年ほど前だが、その頃と比べてもどんどん人も建物も増えてきてやがる。今でも信じられねぇくらいだ」

「そんなにか?」

「ああ。だが驚くのはそれだけじゃねぇ。俺たち冒険者にとって、ここはもはや楽園だ。少なくとも俺は、この街ほど稼げる場所を知らねぇよ。近くに二つも魔境があって、しかも街中には冒険者ギルドから徒歩ゼロ分で入れるダンジョンがある」


 ボレルさんは現在、Dランクの冒険者パーティ『マッドピラニア』の一員として活動しているという。

 実績に応じて冒険者のパーティをランク付けしているのだけれど、Dランクというのは下から二番目のランクだ。


「ちなみにお前、ギフトは?」

「いや……」

「持ってないか。だが心配は要らない。俺たちもそうだからな」


 思わず言い淀むと、ボレルさんは勝手にそう解釈してくれた。


「それでも活躍している冒険者は数多くいる。何よりこの村に来てから、かなり調子がいい。以前より明らかに強くなった感覚がある」


 きっと訓練場のお陰だろう。


「だからお前も強くなれるはずだ。……ところで見たところ、パーティは組んでいないようだな?」

「あ、ああ」

「実はまだ、メンバーが俺を含めて三人しかいなくてよ。ここからさらにステップアップするには、新メンバーが不可欠なんだ。ルイス、もしよかったらうちのパーティに入らねぇか?」

「えっ?」


 もしかして……パーティメンバーに誘われてしまった……?


 もちろんこの男らしい姿のお陰だろう。

 いつもの小柄でひ弱な僕だったら、仮に僕が村長だと知らなくても、絶対に声を掛けられることなんてなかったはずだ。


「(この人は今、僕のことを立派な男だと思ってくれてるんだ……っ! こんなこと、今まで一度もなかった……っ!)」


 いつも「かわいい」とばかり言われて苦しんできただけに、思わず感動してしまう。


「いやもちろん、今すぐ決めてくれとは言わない。そうだ。せっかくだから、少し手合わせしてみねぇか? 俺たちの実力を知れば、良い判断材料にはるはずだ。お前の実力も見たいしな」







 ……どうしてこうなった。


 冒険者ギルドに併設された訓練場で、剣を手にしたボレルさんと向かい合いながら、僕は思わず頭を抱えていた。


 強い男だと思われ、パーティメンバーに誘われたことで舞い上がってしまった僕は、彼の提案を断ることなく、こうして手合わせをすることになってしまったのだった。


「いくぞ、ルイス!」


 そう告げて、ボレルさんが俊敏な動きで飛びかかってくる。

『剣技』のギフトなんて持っていないはずなのに、とてもそうは思えない。


「(ぎゃあああああっ!? ど、どうしたら!? いや……でもっ、もしかしたらっ……この屈強な姿ならっ、戦えるかもしれないっ!!)」


 僕は覚悟を決めてボレルさんを迎え撃った。


「はぁぁぁっ!」

「うぎゃっ!?」

「え?」


 ――瞬殺。


 うん、やっぱり無理でした。

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