第395話 遠くからそっと見守る
「見た目だけ強そうなのはダメだ! 実は弱いって分かると、すごく恥ずかしい!」
ボレルさんの誘いを断り、冒険者ギルドから逃げるように去った僕は、一人顔を真っ赤にしながら叫んだ。
『い、いや、その……ま、まぁ、この村で頑張れば、お前も強く、なれるかもしれない……ぞ?』
僕がめちゃくちゃ弱いと知ったボレルさんの優しいフォローが、かえって胸に突き刺さる。
「うん、強そうな姿は諦めよう……優しい感じの、でも身長は高いままで、すらっとしたタイプにしよう」
そうして僕は、影武者の姿を変更する。
作った後でも自在に修正することが可能なのだ。
「よしよし、これなら強そうには見えないけど、背が高くてカッコいい感じだね」
作り替えた姿に、僕は満足する。
ちなみに身長は百八十センチくらい。
細身ではあるけど、決してガリガリとかではなく、脱げば結構いい身体をしている。
顔は爽やかなイケメンで、すごく仕事ができそうな印象。
服装は先ほどの反省を生かし、冒険者とは真逆の、戦いとは無縁なごく普通の青年の格好にした。
「これなら冒険者と間違えられる心配はないよね」
そうして新しい姿で、僕は村を散策する。
いつもなら村長の僕が歩いていると、みんなが声をかけてくるし、すごく注目を浴びてしまうので、なかなか気軽に散歩したりするのは難しい。
だけどこの姿だったら僕だとバレる心配はまずないので、自由に行動ができる。
「……と思ったけど、なんか結構、ジロジロと見られているような?」
もしかして僕だとバレてる?
いや、さすがにそんなことはないはずだ。
でも今もすれ違った若い女性グループが、僕の方を見て、何やらひそひそと話している。
「(ねぇ、あの人さ……)」
「(うん、私も思った……)」
「(めちゃくちゃカッコいいよね)」
「(イケメンだし、背も高いし……どこかの王子様みたい。でも、格好は庶民的だし……)」
「(ちょっと声かけてみる?)」
「(いやいや、さすがにあたしたちなんて、相手にしてくれないってば。それにもしかしたら本当に王子様のお忍びかもしれないでしょ)」
うーん、何なんだろう?
首を傾げつつも、気にしないことにして散策を続けていると、
「あ、マリベル女王だ」
前方から歩いてくるエンバラ王国のマリベル女王を発見する。
なんか最近、ずっとこの村にいるよね……国のことは大丈夫なのかな?
すぐ背後には兄であるカシムの姿が。
「だからついてくるなと言っているだろう!」
「そんなわけにはいかねぇ! マリベル陛下、オレはあんたの犬になると決めたんだ! 常に傍にいて、どんな危険からも護ってみせる!」
「やめろおおおっ! お前の口からそんな台詞が出てくるのを聞くだけで、頭がおかしくなりそうだっ! だいたいこの村に危険なんてないだろう……っ!?」
ネマおばあちゃんによって更生したのはいいけど、過去を反省するあまり、カシムはマリベル女王に対して過剰な献身性を見せるようになってしまった。
あるいは過保護と言ってもいいかもしれない。
実の妹だからというのもあると思う。
それをマリベル女王はずっと気味悪がっているのに、カシムは自分を曲げようとしない。
更生しても性格は変わってないのかも……。
「えっと、あんまり付きまとうと嫌われちゃうよ?」
「ああ? 何だ、お前は?」
思わず口を挟むと、カシムにめちゃくちゃ睨まれた。
って、そうだった、今の僕は姿を変えた影武者なんだった。
ただ、今さら引っ込むのも変なので、思い切って続ける。
「僕もツンデレな弟がいるから分かるんだ。かわいいからって、あんまり口を出したりしない方がいい。もう子供じゃないんだし、弟には弟の考えがある。遠くからそっと見守る。それが大事だよ」
「っ……」
僕の実感の籠った言葉が少なからず響いたのか、カシムは忌々しそうに顔を歪めるも、何も言い返すことができない様子。
「……ちっ」
結局そう舌打ちだけすると、十メートルほど離れた場所に移動した。
どうやら少しだけ距離を取って、そこから見守るつもりらしい。
……遠くからって、物理的な距離のつもりで言ったわけじゃないんだけど。
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