第56話 一網打尽にできちゃうかも

「戦士長! 先頭が森を抜けたようです!」

「はぁ、はぁ、はぁ……そうか……っ! よし、我々も退くぞ!」


 逃げる同胞たちのしんがりを務め、どうにかオークの群れを抑え込んでいたフィリア率いるエルフの戦士たち。

 報告を受けるなり、一気にその場から撤退した。


 やがて彼女たちも森を抜け、荒野へと辿り着く。


「「「ブルアアアアッ!!」」」


 遅れてすぐにオークの群れが森から飛び出してきた。


「頑張れ! あと少しだぞ!」

「あの城壁を目指して走り抜けろ!」


 そう声を張り上げ、同胞たちを叱咤するエルフの戦士たち。

 しかしそこで予期せぬ誤算があった。


 ここまでは小柄で身軽な身体を活かし、森の地形を上手く利用しながら戦ってきたが、この先は開けた荒野。

 草木が邪魔になり、真っ直ぐ走ることも難しかった大柄なオークたちの方が、むしろ有利な環境だったのだ。


(しまった……もう少し森の中で粘るべきだったか……)


 今さら後悔しても後の祭りだ。


 障害物がなくなったことで、オークの群れが怒涛の如く押し寄せてくる。

 元から数で勝るオークの群れを、もはや疲弊し切ったエルフの戦士たちでは抑えきることなど不可能だろう。


(くっ……ここまでか……っ! だが少しでも時間を稼ぐ! そうすれば、何人かはあの村に辿り着くことができるはずだ……っ!)


 最後まで戦士として戦い抜くことを誓うフィリア。

 そんな彼女に、数体ものオークが同時に躍りかかってきた。


(……願わくば、最後にもう一度、あのトイレを使いたかった……)


 人生の最後にしてはあんまりなことを願いながら、襲いくる巨躯の群れを前に、自らの死を覚悟する。

 だが次の瞬間。


 ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!


「っ!?」

「「「ブゴッ!?」」」


 突然、彼女とオークの間を隔てたのは、どこからともなく現れた石垣だった。

 勢い余ってそれに激突したらしく、向こう側からオークの悲鳴が聞こえてくる。


「な、何だ、これは……? いや、この石垣は、あの村の……」


 その石垣は、逃げるエルフたちと、迫りくるオークの群れを完全に分断していた。


「戦士長! 今のうちに!」

「あ、ああ」


 ともかく命拾いした。

 思わずその場に立ち尽くしていたフィリアは、すぐに踵を返して逃走を再開する。


 そのとき弓の名手である彼女の目が、遥か遠くからこちらを見つめる人物を捉えた。

 村の中心に聳え立つ物見塔の上だ。


「ルーク殿……貴殿のお陰で助かった」


 少年に感謝の言葉を呟きながら、フィリアは村へと急いだ。



    ◇ ◇ ◇



「危ないとこだった」


 村の中心にある物見塔の最上階。

 そこで僕は、オークの群れに追われるエルフたちを見ていた。


 しんがりにいたフィリアさんたちが、餓えたオークの群れに呑み込まれそうだったので、僕は慌てて石垣を作成。

 どうにか両者を分断することに成功したのだ。


 一見すると村はこの外石垣で囲まれた領域だけのように見えるけれど、実はすでにその遥か外側にまで村は広がっていた。

 なので、あんな森から近い場所に石垣を作り出すこともできちゃうのだ。


「それはそうと、どうしようかな……」


 すでに先頭のエルフは村のすぐ近くに辿り着いているし、最後尾のフィリアさんたちもどうにか村に避難できるだろう。


 問題は、果たしてこの村があのオークの群れと戦って勝てるのか、だ。


 ここから見えるだけでも、オークの数は軽く百を超えている。

 しかもまだ続々と森から出てきているような状態だ。


 こちらの村で戦えるのは狩猟チームの数十人だけ。

 護る側の方が有利と言っても、あれだけのオークを相手にできるとは思えない。


「うーん……そのオークは今作った石垣をあっさり破壊しちゃってるし……。石垣を幾つも作ったり、物凄く大きな水堀を作ったりして、十分に疲弊させておいてから戦うとか? でもオークって体力めちゃくちゃありそうだよね……」


 と、そこで僕はあるアイデアを思いつく。


「この方法なら一網打尽にできちゃうかも……?」


 そうして僕は、に石垣を作成することにしたのだった。

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