第324話 ぜひもっと欲しいところじゃ
「西方にはこのような剣が……」
「はい。特殊な魔物の素材を使うことで、こうした剣を作ることができるのです。恐らく理論的には、永遠に使い続けることが可能になるかと」
まぁ作れるようになったのは、つい最近だけどね。
「ちなみに、これと同じ性質を持つものを、我が国の刀でも作ることができたりするのかの……?」
「できると思います」
「なんと……っ!」
驚くイエアス将軍。
さらにマサミネさんが、鼻息を荒くして叫ぶ。
「サムライにとって、刀は己の命より大切なものじゃ! しかし、どんな優れた刀も、使い続ければ摩耗し、いずれは寿命がくる! 激しい戦いの末、修繕不可能になることも少なくない! 使い慣れた愛刀の死は、我が子の死よりも悲しい! その刀が、永遠に使い続けられるなど、全サムライの夢と呼んでも過言ではない……っ!」
あまりの興奮ぶりに、イエアス将軍が「す、少し落ち着くのじゃ」と窘めた。
「はっ? 将軍の御前にもかかわらず、無礼を……っ!? このマサミネ、一生の不覚! もはや腹を切って詫びるしか……」
一生の不覚の頻度、多すぎない?
また切腹しようとしたマサミネさんが家臣たちに取り押さえられる中、いつものことなのか、イエアス将軍はそれを放置して話を進めた。
「その刀、ぜひもっと欲しいところじゃ」
「現状あまり量産はできませんが、できるだけご希望に応えましょう。ただ、その代わりに、こちらもぜひ売っていただきたいものがあるのです」
「それはなんじゃ?」
「お米です」
村の食文化は随分と豊かになったけれど、残念ながらお米はなかなか手に入らない。
入手できたとしても、あんまり美味しくなかったりするし……。
だからこの国が豊富に作っているお米を、ぜひ輸入したかったのだ。
あんなに田んぼが沢山あるんだから、美味しいのは間違いないしね。
できれば断りたかった将軍との謁見を受けようと思ったのは、この交渉のためと言っても過言ではない。
「米など腐るほどある。幾らでも売ってあげられるのじゃ」
「本当ですか?」
「しかし、生憎と両国の間には山脈や砂漠が立ち塞がっておるからのう。輸送するだけでも一苦労じゃ」
「いえ、実は簡単に行き来できる方法があるのです」
「なに?」
「最近、我が国には鉄道と呼ばれるものが作られていまして」
僕が作ったんだけどね。
「テツドウ……?」
「はい。大勢の人を乗せて高速で走れる、馬車の進化版と思っていただければいいかと思います。これを使えば、馬車で何日もかかる距離を、僅か数時間で移動できるのです」
「そのようなものが……」
「しかもこの鉄道、なんと山や砂漠があっても問題なく走れるのです。なにせ、地下を通るようにしますので」
「地下を!?」
「ちなみに、砂漠にはすでにこの電車が走っていますので、そちらを利用すれば、現時点でも我が国との行き来がかなり簡単になるはずです」
「え?」
呆気にとられるイエアス将軍。
知らない間に、国の近くまで謎の交通網が展開されていたのだ。
驚くのは当然だろう。
「(それが本当なら、向こうがその気であれば、いつでもこちら側に攻めてこれることではないか……? そんなものが、将軍の余も知らぬうちに作られていたとは……さすがにヤバ過ぎるんじゃが……。あんな剣を製造できる技術力といい、どう考えても敵に回すと危険じゃな……平和的な関係を築いていくしかなかろう)」
イエアス将軍が恐る恐る訊いてくる。
「ち、ちなみに、他の国にはすでに赴いておるのか?」
「いいえ、まだです。この後に伺う予定です」
「そうか……キョウはともかく、オオサクは確実に貿易を望むじゃろうな。……あい、分かった。そのテツドウとやらを、山脈にも通そうではないか。して、どれほどの人手と期間がかかるのじゃ?」
「明日までには完成させられると思いますよ」
「明日まで!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます