第382話 出番はないよ

「え? この村の力を貸してほしい?」


 その日、とある冒険者たちから打診を受けた。


「はい。実は我々、少し前から地中海南の小国、チュニア王国で活動しているのですが、ここに最近、恐ろしい巨人の魔物が出没していまして。冒険者たちはもちろん、騎士団も手が出せず、現地の人々は眠れない夜を過ごされているのです」


 実は彼らは、この村で結成された冒険者パーティなのだという。

 しかし最近、冒険者の活動を通して困っている人たちを助けたいと、新天地を求めて村を出たばかりらしい。


 ……うん、なんかほんのちょっと前に、同じような話を聞いた気がするね。


「たとえ報酬が少なくとも、人々のためになることをしたいと思ったのです」

「そうなんだ……偉いね」


 この台詞も明らかに聞いたことがある。


「(本当は冒険者パーティと見せかけた、伝道師の一団ですけどね! 困っている人たちを助け、感謝されたところで、すべてはルーク様のお陰だと説くのです! そうしてどんどん信者を増やしていく! それこそが、聖母ミリア様の作戦!)」


 もちろん同じような志を持って、村を出ていく冒険者がいてもおかしくはないけど……まるで判を押したかのように、同じことを言うだろうか?


 ともあれ、無視するわけにもいかない。


 チュニアという国は、クランゼール帝国によって一時属国化されていた国だ。

 僕たちが元凶の大臣を倒したことで、現在は主権を取り戻しているそうだけれど、侵略の影響で国力は弱まり、こうした危機と対峙するのも今は一苦労だという。


 ただ、何度か使者団を迎えはしたけれど、チュニアとはまだそれほど交流があるわけではない。


 無論、だから助けないというわけじゃない。

 瞬間移動や鉄道などで入国することができない上に、国内を簡単に移動する方法がないせいで、先日のように今すぐにとはいかないということだ。


 まずは村の領域内に置かないと……。

 でもそれを勝手にやるわけにもいかないし。


「その心配はございません。すでに同国の国王陛下から、他の地中海沿岸の国々と同様に、この村の影響下に置いても構わないとの許可をいただいています」

「えっ?」

「こちらはその信書となります」

「ほんとだ……」


 いち冒険者パーティが、一国の長と直接やり取りをしているなんて……。


 ともあれ、国王から直々に許可をもらったことで、チュニアが村の領域に加わった。

 所有者の了承があれば、領地強奪を使う必要もないのだ。







「あっ、見つけた」


 空飛ぶ公園から地上を見下ろしながら探すこと、小一時間。

 遠くにそれらしい巨大な影を発見した。


「なるほど、あれがその巨人か。確かにめちゃくちゃ大きいかも」


 目算で、身の丈三十メートルはあるだろうか。

 七、八階建てのビルに相当する高さだ。


 帝国が侵略に利用し、周辺国を恐怖に陥れたあの巨人兵が十数メートルほどだったので、その倍はあるだろうか。


 大きいだけあって動作はゆっくりだけれど、地面を踏みしめる度に地響きが起こっている。

 こんな魔物が都市に襲いかかってきたら、もはや一巻の終わりだろう。


 人間の身で真正面から戦いを挑むのは、うちの精鋭たちであっても、なかなか厳しいかもしれない。


「普通に挑んでも踏み潰されるのがオチね」

「アタシよりパワーありそうよぉん」


 セレンとゴリちゃんも及び腰だ。


「先日は不甲斐ないところを晒してしまったでござるが、その汚名を返上してみせるでござる!」


 アカネさんはやる気満々だけど。

 というか、何でまた付いてきちゃったんだろう……セレンが言う通り、あっさり踏み潰される展開しか見えない。


「たぶん、今回もアカネさんの出番はないよ」

「なぜでござる!?」


 特別にある村人たちを連れてきたのだ。


「ドナ、大丈夫そう?」

「ん、任せて。実戦投入、楽しみ」


 力強く頷いたのは、ドワーフの少女ドナ。

 そして彼女の指示を受けて、ドワーフの青年が機械仕掛けのドラゴンに乗り込む。


 そう。

 今回この大型巨人を討伐するために、帝国から押収した機竜を始めて実戦投入するつもりなのだった。


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