第383話 じゃあ今の間は何

 機竜。

 それはクランゼール帝国が、巨人兵と同様に古代遺跡から発掘した、ドラゴン型の兵器である。


 全長はゆうに二十メートルを超えていて、あの三十メートル級の大型巨人にも対抗できそうな大きさだ。


 機竜を操縦するのは、ドナと一緒にこの機竜の研究に従事しているドワーフの青年、ドルドラさん。

 何人か試験的に操縦をしたそうだけれど、その中で彼が一番、操縦が上手かったという。


「行ってくるだ!」


 スピーカーから勇ましい声が聞こえてきたかと思うと、機竜が大きくその翼を広げた。

 直後、翼の下部から猛烈な炎が噴出し、公園の上を巨体が猛烈な速度で走り出す。


 そうして機竜は空へと舞い上がった。


「あれって空まで飛べるの!?」

「モデルはドラゴン。飛べるのは当然」


 驚くセレンに、ドナが自信満々に言う。


 機竜は高速で空を舞うと、地上を悠然と歩く大型巨人に背後から襲いかかった。

 そしてすれ違いざま、その鋭い爪で大型巨人の頭部を切り裂く。


「オアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 頭から血が噴出し、大型巨人が絶叫する。

 何が起こったのかと咄嗟に周囲を見回すが、すでに機竜は上空へと飛び上がっていて、その姿を見つけることができない。


「まさか上から攻撃されるとは思ってもいなかったようね」

「あれだけの巨体だしね」


 混乱しているのか、それとも今まで味わったことのない痛みに苦しんでいるのか、巨人は何度も地面を踏みつけて暴れている。

 その度に大地が砕け、周辺の木々が巻き起こった風圧だけで倒されていく。


 そんな大型巨人へ、機竜は再び接近していくと、至近距離から魔力のレーザーを発射した。


 寸前で機竜の存在に気づいた巨人だったが、放たれたレーザーを回避する暇などなかった。


「オアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 レーザー光がその身を袈裟懸けに切り裂いていく。

 大型巨人は鮮血を噴出させながら、その場に膝をついた。


 それでも今ので機竜を認識した大型巨人は、その動きを目で追う。

 すぐに立ち上がると、腕を伸ばして機竜を空から叩き落とそうとする。


 だがその腕は高度を上げた機竜に届かなかった。

 悠々と巨人の頭上を舞い続ける。


「オアアアッ!!」


 激怒した大型巨人は、足元にあった岩を掴み上げた。

 それを機竜目がけて投擲する。


 しかし機竜は軽くそれを回避。

 岩は地面に落下してちょっとしたクレーターを形成した。


「オアア……」


 円を描くように飛ぶ機竜を見続けたせいか、大型巨人は目を回したようによろめく。

 機竜はその隙を見逃さなかった。


 超至近距離から大型巨人の口内にレーザーをお見舞いする。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 レーザー光は巨人の口から首の後ろへと抜けていった。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 絶命した大型巨人が、凄まじい轟音と共に地面に倒れ込んだ。


「……たった一機で倒してしまったわ」

「ん、これが機竜の力」

「せ、拙者の出番が……」


 機竜って、こんなに強かったんだ。

 大臣が操縦してたときは、瞬間移動で操縦席に乗り込むっていう裏技を使ったこともあって、あっさり無力化できちゃったからね……。


 しかもドナは、材料さえ揃えば、これを一から作れてしまうらしい。

 やっぱり勝手に量産しないように見張っておかないと……。


「もちろん作ったりしてないよね?」

「………………………………ん、当然」

「じゃあ今の間は何!?」


 そこへ機竜が戻ってくる。

 公園の上に着陸すると、中からドルドラさんが下りてきた。


「初の実戦だったけど、上手くいったべ! これをさらに強化させた、新型機の完成が今から楽しみだべ!」

「新型機……?」

「あっ」


 うっかり口を滑らせてしまったのか、ドルドラさんが「しまった」という顔をする。


「ドナ? 詳しい話を聞かせてもらおうか?」

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