第386話 ぜひともこの目で確認せねば

 土蔵には窓が付いている。

 それを開けて外の様子を確認しつつ、ツタの森の中を進んでいく。


 小さい窓なので、昆虫系の魔物が入ってくることはできない。

 もちろんツタは中まで侵入してくるけれど、この程度なら簡単に対処することが可能だ。


 そうして探索を続けること、しばらく。


「ルーク、あそこに何か赤いものが見えるわ!」

「ほんとだ」


 緑色のツタばかりの一帯の中に、セレンが真っ赤な箇所に気づいた。

 血のような赤色が、そこだけぽつんと広がっているのだ。


「ツタがどんどん窓から侵入してくる……っ!」

「どうやら近づいてほしくないようだな」


 土蔵をその赤色に向かって動かしていくと、今までの比ではないほどのツタが窓から入ってきた。

 昆虫系の魔物も大量にいるようで、その攻撃で土蔵が大きく揺れる。


 それでも無理やり近づけ、ついにその謎の赤色の正体が判明した。


 巨大な花だ。

 ツタが密集する中、真っ赤な花弁が咲き誇っていたのである。


「しかもあの花の中心に何かいるぞ」

「あれは……女の子?」


 花弁の奥。

 そこに静かに佇んでいたのは、一人の少女だった。


 花と同じ赤色の髪。

 そして肌は恐ろしいほど白く、衣服らしきものは何も身に着けていない。


「なに、こんなところに、裸の少女? なんと面妖な。ぜひともこの目で確認せねば」

「ガイさん、いい加減、煩悩から抜け出してください」


 小さな窓から一目見ようと割り込んでくるガイさんを、僕は押し返してやった。


「明らかに人間ではない。恐らくはアルラウネだ」

「人の女性の姿をした植物系の魔物ねぇ。でも、こんな規模にまで成長した個体、アタシも初めて見たわぁん」


 物知りなフィリアさんとゴリちゃんが教えてくれる。


「あれ、ガイさん? ちょっ、何しようとしてるんですかっ?」


 そのとき、ガイさんが勝手に土蔵の扉を開けて外に出ようとしたので、僕は慌てて止めようとした。

 しかしガイさんはそれを無視し、扉の鍵を開けようとする。


「ああ、必ずこの目に納めねば……拙僧は後悔するに違いない……」

「何やってんのよ、エロ坊主! 勝手なことするんじゃないわよ!」


 ハゼナさんが怒鳴りつけても、ガイさんは視線すら向けなかった。


 ……明らかにおかしい。

 単にいつものように煩悩にやられているという感じじゃない。


 どこか目も虚ろだし、ぶつぶつと呟いている言葉も変だ。


「俺も……彼女の姿を見てみたい……」

「アレクさん!?」

「そ、そうだな……俺も、我慢できないというか……」

「バルラットさんまで!?」


 異変が起こったのはガイさんだけじゃなかった。

 アレクさんやバルラットさん……さらにゴアテさん、ガンザスさん、ドリアル……。


「って、男性ばかり?」

「アルラウネが出す特殊な香りのせいよぉん! 人間の男を魅了して誘き寄せ、喰らうのがアルラウネなのよ!」


 ゴリちゃんが顔を顰めながら言った。

 そういえば、さっきから少し甘いにおいがしている気が……。


 見ると、女性陣は平気だ。

 ゴリちゃんもまったく効いている様子がない。女性だからね、うん。


 僕も……あんまり感じない。

 何でだろう? ……子供だから?


「くっ……フィリアさんの前で……こんなこと……」

「あ、頭が……くらくら、する……」


 この中ではかなり若い部類に入るセリウスくんやノエルくんは、頑張って耐えている。

 抗うことができる程度にしか、効いていないということなのだろう。


「僕ももう少し効いてもいいよね!? それだけ子供ってこと!? 僕だって、もう十四歳なんだけど!?」

「ルーク、今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!」

「そんなことって!?」


 セレンの言葉に思わず僕は叫ぶ。

 僕にとってはめちゃくちゃ重要なことなんだけど!


 とはいえ、半数以上を占める男性陣が魅了されたこの状況は、かなりマズい。

 すでに土蔵の扉が力づくで抉じ開けられようとしている。


「男性陣は村に帰すしかないか」

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