第385話 逃げるわけには
「拙者、虫は苦手でござるうううううううううううっ!!」
蜘蛛の魔物に追いかけられ、必死に逃げてくるアカネさん。
アンデッドだけでなく、虫もダメのようだ。
「はあああああっ!」
アカネさんと入れ替わるように前に出たのはマリベル女王。
迫りくる蜘蛛の脳天へ、猛スピードで槍を突き刺した。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
絶命する巨大蜘蛛。
マリベル女王は槍を振り回して蜘蛛の体液を払うと、ツタに覆い尽くされた街の方を睨みながら告げる。
「どうやら昆虫系の魔物が集まってきているようだな」
確かによく見ると、あちこちにそれらしき影が蠢いていた。
「うん、アカネさんは村に帰しておこう」
「ま、待つでござる!? 拙者、今度こそ汚名を返上せねばならぬ! 逃げるわけには」
「あ、今度は芋虫の魔物がこっちに来る」
「ぎゃああああああああっ!?」
足手まといは御免なので、アカネさんを瞬間移動で強引に村に連れ帰った。
「切腹しないように見張ってて」
「「「畏まりました!」」」
念のため手足を縛った状態にしつつ、訓練場にいた村人たちに託す。
アカネさんの切腹癖はすでに周知のことなので、彼らもすんなりと応じてくれた。
「ルーク殿おおおおおおおおっ!」
泣き叫んでいるアカネさんを放置し、みんなのところに戻る。
「ええと、その植物系の魔物は、この街のどこにいるのか分からないんだよね?」
「はい」
僕が聞くと、アニエさんは頷いて、
「ただ、この街から逃げた人たちの話を総合すると、恐らく街の中心部に近いところだろうとのことです」
一応、空飛ぶ公園に乗って街を上空から見てみたけれど、あちこち生い茂っていて、どの辺りがツタの発生源なのかよく分からなかった。
何となく、アニエさんの言う通り、中心部あたりの繁茂具合が少し激しいかなという印象はあったけれど。
そこでひとまず中心部まで瞬間移動し、そこから周辺を探索していくことにした。
「まるで森に呑み込まれてしまったかのようね」
「太陽光がほとんど入ってこないせいで、すごく暗いわぁん」
頭上をほぼ覆い尽くすツタのせいで、街の中は夕暮れのように暗い。
ツタは建物の中にまで侵入している。
「っ、ツタがこっちに伸びてきたわ!」
僕たちの存在に気づいたのか、ツタが四方八方から襲い掛かってきた。
「こいつら身体に巻き付いてくるぞ!」
「斬っても斬ってもキリがねぇ!」
無限とも思える量のツタに、みんな苦戦している。
「うわあっ!?」
「セリウスくん!?」
足に絡みついたツタが、セリウスくんを宙吊りにした。
そのままツタの海に呑み込まれそうになったけれど、
「ふっ!」
フィリアさんが放った矢が、セリウスくんの足に巻き付いていたツタを切断した。
セリウスくんが地面に落ちてくる。
「大丈夫か、セリウス殿?」
「だだだ、大丈夫ですっ!?」
フィリアさんに助けられ、顔を真っ赤にするセリウスくん。
別の意味で大丈夫ではなさそうだ。
……もう何度も一緒に戦っているのだから、いい加減、慣れてほしい。
「おい、昆虫系の魔物までこっちに押し寄せてきてるぞ!」
「あぁん、これじゃあ、まともに探索もできないわぁん」
「そうだね。みんな、この中に入ろう」
僕は土蔵を作り出した。
〈土蔵:土製の保管庫。虫食いや腐敗を防ぎ、食料などの保存期間アップ〉
ツタも侵入してきようとしたけれど、全員が土蔵の中に避難したところで扉を閉める。
さらに施設グレードアップを使い、強度を限界までアップさせていく。
昆虫系の魔物がぶつかっているのか、壁の向こうからドンドンドン、という音が聞こえてくるけれど、強化した土蔵はビクともしない。
「このまま土蔵を移動させつつ、街の中を調べていこう」
「そんな手が……」
「相変わらず村長はめちゃくちゃだな……」
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