第31話 死ねと言われたら死ぬんだね

「ルーク様? どうされましたか?」

「あ、ミリア。この小屋から削り出して、剣を作ってみたんだ」

「小屋から剣を……?」


 目を丸くするミリアの前で、もう一本、別の剣を作り出してみる。

 二度目なので、先ほどより短い時間で完成させることができた。


「ちょっ、何よ、今のは……っ?」

「セレン。小屋の木材を使って剣を作ったんだ」

「……意味が分からないんだけど? 『村づくり』のギフトで、何でそんな真似ができるのよ?」

「一応、施設をカスタマイズするための能力なんだ」

「随分と応用の幅が広そうね……」


 確かにこの施設カスタマイズを使えば、武器以外に器とか小物とかも簡単に作れてしまいそうだ。


「ともかく、この剣の性能を確かめてみたいな」


 するとセレンが『剣技』のギフトを持つバルラットさんを呼び出した。


「ちょっとこの剣を使ってみて」

「はい」


 どうやら模擬戦形式で確かめてみるつもりらしい。


 そうして僕の前で、バルラットさんが僕の作った剣でセレンに襲いかかる。

 目にも止まらぬ速さで繰り出されるバルラットさんの斬撃を、セレンは二本の剣で軽々と捌いていった。


 ペキンッ。


「あ……」


 二人が戦い始めて僅か一分くらいのことだった。

 剣があっさり折れてしまったのだ。


「折れてしまったわね。使ってみてどう?」

「正直、強度があまり……実戦で使うには不安がありますね」


 聞けば、狩猟チームが使っている木剣は、強度の高い木材を利用しているらしい。

 それでもセレンの業物の剣と比べると遥かに脆いそうだけど、僕が作った木剣はさらに強度が劣るという。


「うーん、壊れること前提でたくさん作れば……いや、狩りにそんなに持って行けないか。じゃあ、強度をもっと上げるしか……もしかして同じ小屋でも、場所によってはもっと硬い部分があったり……? それを利用すれば……」


 色々と改善方法を考えていると、そこへ最年長のおばあちゃんがやってきた。


「いっひっひ、こやつらの更生が終わったよ」


 おばあちゃんが引き連れていたのは、最初に更生施設へと送られた盗賊たちだった。


「ありがとう、おばあちゃん。って……」


 彼らを見て、僕は思わず言葉を失う。

 というのも、彼ら五人から、まったく精気が感じられなかったからだ。


「だ、大丈夫、君たち?」

「「「……はぃ」」」


 恐る恐る声をかけると、消え入りそうな声が返ってくる。

 うん、どう見ても大丈夫そうじゃない。


「お前たち、これからは村長の言うことを言われた通りに実行するんだよ。働けと言われたら働き、死ねと言われたら死ぬんだね」


 えっ、今後は僕がこの人たちを預かるの!?


「「「……はぃ」」」

「声が小さいねぇ? まだあたしの更生を受け足りないのかい?」

「「「は、はひぃ……っ!」」」


 よほど恐ろしかったのか、無表情だった彼らに初めて怯えの感情が現れる。

 裏返った声で返事してから、彼らは僕に頭を下げてきた。


「「「村長様、我々はあなた様の奴隷です。どんな命令でもお申し付けください」」」

「いっひっひっひ、とっても従順になっただろう? これでもう二度と悪さはしないはずさ」


 確かに従順で、悪さもしなさそうだけど……。


「目を離すと自害しちゃいそう……」


 光りの消えた虚ろな目は、そんな危うさすら感じさせられる。


「お任せください、ルーク様」

「ミリア?」

「わたくしはこの村の神官。神の声を聞く者として、彼らを教え導きましょう」

「あ、うん、そうだね。じゃあ、ミリアに任せていいかな」


 ……よかった。

 こんな虚無に落ちた人たちを任されても、正直困る。


 きっとミリアなら、彼らに信仰の尊さを教え、魂に良き光を灯してくれることだろう。

 ……なんてカッコよく言ってみたけど、実際にはただの丸投げだ。


「いっひっひ、それじゃあ、あたしは次の連中を更生するかねぇ」


 おばあちゃんが楽しそうに牢屋の方へと歩いていく。


 本当におばあちゃんに任せていいんだろうか?

 心配になってきたけど、生憎と他に適任もいない。


「ん、待てよ? そう言えば、あの牢屋って……」


 とそこで僕はハッとした。


「そうだ! あれを使って剣を作ればよかったじゃんか!」


 僕の脳裏に思い浮かんだのは、牢屋の内と外とを隔てている格子状の金属部分。

 そう、鉄格子だ。

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