第237話 やっぱり結構臭いよ
「うめぇぇぇぇっ!」
「何だ、この美味さは!?」
「こんなに美味いもん初めて食ったぞ!?」
自分たちで作った料理にみんな驚愕している。
女性ばかりだけど言葉遣いが荒っぽいのは、獣人だからだろうか。
ともかく、これで食糧事情は解決した。
今後はもうわざわざ略奪したりはしないだろう。
「ただ……」
僕は思わず鼻を摘まむ。
そう、実はちょっと……いや、かなり臭うのだ、この集落。
「どうしたんだ、顔を顰めて?」
「ララお姉ちゃん。そうだね……今まであえて言わなかったけど、お姉ちゃんもやっぱり結構臭いよ」
「いきなり酷いこと言うな!?」
獣人だから少し体臭がキツイというのもあるかもだけど、そもそもあんまり身体を洗っていないっぽい。
井戸なんてないので、雨水を溜めて、それを利用しているようなのだ。
飲み水はもっぱら、家畜のミルクらしい。
「まずはお風呂だね。公衆浴場を作ろう」
〈公衆浴場:みんなのお風呂。村人たちの疲労回復、健康維持、愛村心アップ〉
「何だ、この建物は?」
「お風呂だよ、お風呂」
「……お風呂?」
お風呂すら知らないようだ。
「身体を洗って綺麗になるための場所だよ。ほら、ララお姉ちゃんは臭いんだから、早くここで臭いを取ってきて」
「可愛い顔して辛辣だよな!?」
ララさんを押し込んでからしばらく。
すっかり身体中の汚れを落として出てきた。
「凄いな、ここは! あんなに温かくて綺麗な水がたっぷりあるなんて! ついたくさん飲んでしまったぞ!」
「飲み水じゃないんだけど」
「それに気持ちよかったぞ! 身体がすっごく良い匂いに包まれている!」
「うんうん、ちゃんと綺麗になったみたいだね」
いきなり現れた謎の建物を警戒していた他の獣人たちも、ララさんの様子を見て、我先にと公衆浴場へ入っていく。
「さて、後は……トイレかな」
この集落では穴を掘って埋めるだけらしい。
だからどうしても臭くなってしまうのだ。
〈公衆便所:みんなのトイレ。自動消臭・自動洗浄機能付き〉
というわけで、公衆便所を設置する。
「何だ、こりゃ? なに? トイレだと? うわっ、めちゃくちゃ綺麗じゃないか! 本当にこんなとこでやっていいのか?」
「うん。あのレバーを引けば水が流れるよ」
「……そうか、じゃあ早速」
「ちょっ、いきなり脱ごうとしないで!? あとちゃんと扉を閉めて!」
「? 女同士、別に見られても構わないだろ?」
中に入って説明していた僕は慌てて逃げ出した。
「ん? 何だ、これは? ひゃうっ!? いきなり水が出てきたぞ!?」
もちろんウォシュレット機能も付けておいた。
「……け、けど……これは……わ、悪くない……」
集落はすっかり衛生的になった。
獣人たちも毎日ちゃんとお風呂で身体を洗うようになり、爽やかな石鹸の匂いがするようになっている。
他にも色々と集落を作り替えることもできたけれど、あくまで最低限に留めておいた。
獣人族に特有な文化を、できる限り保っておいた方がいいと思ったからだ。
畑やトイレなどの他には、集落の周囲を囲む土塁だけでは心許なかったので、それを石垣に変えたくらいである。
なお、この期間、僕は小さな家屋を建てて、そこで寝泊まりしていた。
ララさんが一緒に自分のテントで住もうと誘ってくれたけど……断ったら悲しそうな顔をされた。
とはいえ、ずっといるわけにはいかないので、意識だけは村にいる本体へと戻し、影武者に任せたりはしている。
「なぁー、今度こそ一緒にお風呂行こうぜ~」
「だ、大丈夫、僕は見ての通り綺麗だから」
何度かララさんにお風呂を誘われたけれど、当然ながら一緒に入るわけにはいかない。
僕は頑なに拒み続けていた。
「くんくん……おかしいなぁ、何で身体も洗ってないのに良い匂いがするんだよ? しかも全然トイレに行くのを見ないような……?」
この身体は影武者だからね。
汗を掻いたり排泄物を出したりはしないのだ。
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