第171話 対アルベイルの最終兵器です
時間は少し遡る。
「お待ちしておりました。あ、いえいえ、私はただの案内人でございますよ。申し訳ありませんが、ここから少しだけ移動していただくことになります」
指定場所へ着いた、ダリネア王女と護衛のマリーシャ。
そこで待っていた人物に連れられ、やってきたのは代官の居城だった。
「これは代官の城では……? なるほど、では、ここに諜者が……」
「こちらからどうぞ。ええ、さすがに目立つ正面口から入っていただくわけにはまいりませんので」
訝しみながらも、二人は裏口から中に入り、応接室へと通された。
「あっ、どうもどうも。遠路はるばる、よくぞお越しいただきました、王女殿下」
部屋で待っていた男が立ち上がり、頭を下げてくる。
「私が代官のミシェルです。以後、よろしくお願いしますね」
「「代官!?」」
予想外の人物に、二人は咄嗟に身構えた。
「って、あれ? 警戒されてます?」
「……なぜアルベイル侯爵の代官が……まさか、敵に我々のことがバレて……」
ダリネア王女を護るように立ち、マリーシャが鋭く睨みつける。
領主の代理として都市などを治めているのが代官だ。
アルベイル卿の息がかかった者である可能性が高く、警戒するのは当然のことだった。
「ははは、驚かれるのも無理はありません。ですが、ご心配なく。私は正真正銘、殿下の味方ですよ。アルベイルの片田舎出身ということにしていますが、本当は殿下の母君の家に連なる者でして、国王陛下の命を受けて十年以上も前からここアルベイルへ潜入していたのです。まさか代官になれるとは思ってもいませんでしたけれどね」
「お母様の……?」
少し警戒を解くダリネア王女に、ミシェルと名乗った代官は、故郷に関することを幾つか語ってみせた。
それは幼い頃に彼が、確かにその地域に住んでいたと確信させるほど細やかな内容で、
「あたくしも何度か遊びに行ったことがあるから、よく分かりますわ。とても風光明媚で、いいところですの」
「信じていただけたようで何よりです。それにしても、さすが聡明な陛下の姫君ですね。ご理解が早くて助かります」
国王ダリオス十三世は、世が世であったなら、多大な偉業を成し遂げる賢王になっていたかもしれない。
早くからアルベイルの危険性を認識し、間者を潜入させていたことからもその片鱗が伺える。
「もしものときの手札とするため、我々のような人間をあらかじめ送り込んでおいたのでしょう。無論、私も他の間者がどこにいるかまったく知りませんが」
「さすがお父様ですわ」
そしてはやる気持ちを抑えながら、ダリネアは恐る恐る問う。
「それで、この状況を覆す起死回生の一手というのは……」
「こ、こんな場所に、これほどの都市が……」
「驚きですよねぇ。しかもこれ、ほんの一年半前は、ただの荒野だったらしいです」
「そんな短期間に!?」
ミシェルに連れられ、リーゼンの街からさらに北へ。
そこに広がる荒野でダリネア王女を待っていたのは、王都に勝るとも劣らない大都市だった。
「そんな真似ができる人物が、本当にアルベイル卿と対立しているというのですか……?」
「対立、というとちょっと語弊がありますが、祝福の儀の直後に何もなかったこの荒野へ追放されてしまったのは間違いありません」
「アルベイル卿が、そんな愚かなことを……」
「はは、確かにそれこそがアルベイル卿にとって、人生最大のミスと言っても過言ではないでしょうねー。もっとも、その時点でこの未来を想定するなんて、神でもなければ不可能だと思いますが」
そして街の中心に聳え立っていたのは、高さ百メートルはあろうかという巨大な建造物だ。
「……ど、どうやら、これが現在の村長宅のようです」
「村長宅……普通に王宮を超えてますわ……」
また少し見ないうちにとんでもないものを作ったなという顔をしつつ、ミシェルは言う。
「ルーク=アルベイル様。彼こそが、私が陛下に進言させていただいた起死回生の一手。そのすべての鍵を握る、対アルベイルの最終兵器です」
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『ただの屍のようだと言われて幾星霜、気づいたら最強のアンデッドになってた』の第2巻、ファンタジア文庫さんより本日発売です!
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