第172話 スパイなんですよねー

「申し遅れましたわ。あたくしは国王ダリオス十三世の第一王女、ダリネアですの」


 王家の人が来たんだけど!?


「あ、え、ええと……僕、いや、私はルーク=アルベイル。この村の村長です」


 王宮より立派な宮殿を作っちゃったから、抗議しに来たのかもしれない。

 こんなに早く見つかるなんて。


「それにしても大変驚きましたわ。こんな高層のお城、あたくし、初めて見ましたの」


 やっぱりそうだ!

 遠回しな表現だけど、絶対怒ってるよ、これ!


「内装もとても美しく、手の込んだ作りですわね。これほどのものを作るなんて、今はもう王家でも難しいですわ」

「ももも、申し訳ありませんでしたああああああああっ!」

「……え? な、なぜ謝られるんですの?」

「あれ?」


 慌てて謝ったんだけど、不思議そうな顔をされてしまった。

 もしかして怒ってるわけじゃない……?


「あ、いえ、こんな宮殿を作っちゃったことを咎めにいらっしゃったのかと」

「違いますわ。むしろ感動しているくらいですの」

「そ、そうなんですね」


 よかった、どうやら怒ってはいないらしい。

 でも、それなら何のために来たんだろう?


 王都からこの村まで、かなりの距離がある。

 王女様がわざわざ赴くなんて、よっぽどの理由がないとあり得ないはずだ。


 しかも考えてみたら、今はまさに王家がアルベイルによって打倒されようとしている最中。

 そんなときに王女様が、アルベイル家当主の息子である僕のところに来るなんて……。


 いや、ミシェルさんと一緒にいるのだから、僕がアルベイルからほぼ離反した状態にあるのは知ってるのかな?

 ていうか、何で代官であるミシェルさんが王女様と……?


「ルーク様。お願いがあるのですわ」

「お願い……?」


 ……何だろう。

 物凄く嫌な予感がしてきた。


 今すぐ回れ右して部屋を出ていきたい気持ちになる僕へ、王女様はとんでもないことを口にしたのだった。





「アルベイル卿を打倒するため、あなた様の力を貸していただきたいのですわ!」





「何でそうなるの!?」


 思わず敬語も忘れて叫んでしまう。


「いやいや、僕も一応、アルベイルの一員だって知ってるでしょ?」

「ですが、祝福の儀の直後に追放され、当主のアルベイル卿とは敵対関係にあると聞いていますわ」


 仲が良くないのは確かだけど、別に敵対関係ってほどじゃない。たぶん。


「もはや王宮はごく一部を除いて、アルベイル卿に屈する方向で話が進んでいますし、このままではこの国をアルベイル卿が完全に支配してしまうことになりますわ」


 王女様は切実な顔で訴えてくる。


 詳しく訊いてみると、実際には王女様が新たな王となり、その婿としてアルベイル卿を王宮に迎え入れるつもりらしい。

 ただ、実質的な権力はアルベイル卿が握るものとなるのは確実で、王女様は王家の血を護るだけのお飾りの女王でしかないという。


「無論、アルベイル卿が正しくこの国を導いてくださるならば、それでも構いません。ですが、待っているのは恐らく力と恐怖による暴政……さらには他国の侵略に乗り出すであろうことは、侯爵のこれまでを見れば容易に推測できますわ」


 うん、まぁ、僕にもそう推測できるけど……。


「だけど、何で僕に?」

「聞けば、弟君が率いるアルベイル軍を軽々と退けたそうですわね。ルーク様であれば、アルベイル卿にも対抗できるのではないか。そう考えたのですわ。……そこにいるミシェルが」


 いつの間にか隠れるように王女様の後ろに回っていたミシェルさんへ、僕はジト目を向けた。


「勝手なこと言ってくれると困るんですけど……だいたい、何でミシェルさんが?」

「はは、実は私、国王陛下から直々に命を受けて、アルベイル領に侵入していたスパイなんですよねー。あ、ちなみに断っても無駄ですよ。そろそろ国王陛下が、この村のことをアルベイル卿に話してる頃かと思いますので」


 ……マジか。

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