第150話 もう少し自重してもらってもいいかな
「ルーク殿! ルーク殿っ!」
「どうしたの、レオニヌスさん? そんなに慌てて」
「こ、工房に! 今すぐ工房に来てほしいのじゃ!」
「……?」
その日、僕は村のエルフたちが働いている工房に呼び出された。
〈工房:美術や工芸、鍛冶、服飾などに使える仕事場。アイデア力、器用さアップ〉
村には色んな工房があるけれど、ここでは主にポーションを作っている。
元々は限られた量しか生産されていなかったポーションだけれど、素材となる薬草の栽培に成功して、今では量産できるようになっていた。
さらにハイポーションというより高い性能を持つポーションや、病気や毒などにも効果があるキュアポーションなど、新たなポーションの開発も進んでいた。
「こ、これを見ていただきたいのじゃ」
そう言って、レオニヌスさんは用意されていた実験用のネズミに、淡く発光した不思議な液体をかける。
そのネズミには尻尾がなかったのだけれど、
「えっ……は、生えてきた……」
ポーション、そしてハイポーションであっても、身体の欠損を再生することは不可能であるはずだった。
だけど今、僕のすぐ目の前で、失われた尻尾が完全に元通りになってしまったのだ。
「こんなことが可能な液体なんて……まさか」
「そのまさかですのじゃ! これこそ、かの伝説の霊薬、エリクサーですぞ!」
「エリクサーっ!」
伝説なので詳しいことは分からないけれど、身体の欠損どころか、生まれつきの障害や病気すらも治し、さらには飲めば五十年は若返るとまで言われている秘薬だ。
よく見ると、この液体をかけられた実験用のネズミ、切れた尻尾が修復したばかりか、毛並みまでもが良くなっていた。
「鑑定してもらったのですが、間違いないとのこと。我らの祖先の中でも、特別な力を有したというハイエルフたちだけが精製できたとされる、秘薬中の秘薬じゃが……まさか、それを儂らが作ってしまうとは……」
感極まったのか、レオニヌスさんは涙声で言う。
しかもこのエリクサー、新しいポーションを開発する過程で偶然作れてしまったらしいのだけれど、すでに製法が判明しており、今後も精製が可能だという。
「大量の素材が必要なため、さすがに量産はできぬが、要望があればいつでも作ることはできますぞ。ただ……」
こんなものを村で作れると知れ渡ったら、大変なことになってしまうよね。
世界中の王侯貴族がこの夢の霊薬を欲しており、過去にはそれが偽物であったにも関わらず、争奪のための大戦争が勃発したほどだという。
そのせいで、呪われた薬と恐れられているのがエリクサーなのだ。
「……秘密にしておいた方がよさそうだね」
その後もエルフの工房では、様々なポーションが開発されていった。
「飲むだけで一時的に筋力が十倍になるマッスルポーションですぞ! 見てくだされ! 儂のような非力なエルフでも……ごくごくごく……この通りですじゃ!」
ズゴオオオオオンッ!
レオニヌスさんが拳を叩きつけると、凄まじい轟音とともに地面が大きく割れた。
「……は?」
唖然とする僕を余所に、レオニヌスさんはまた別のポーションを持ってきて、
「さらにさらに! こちらのポーションは飲むだけで一時的に知力が十倍になるインテリポーションですのじゃ!」
それを飲んだレオニヌスさんが披露してくれたのは、五桁の数字20個を僅か五秒で足し算するというものだった。
「795165じゃ!」
「せ、正解……」
エルフの族長というイメージとは裏腹に、正直そんなに頭がいいとは言い難かったレオニヌスさんが、一瞬でこんなに難しい計算をしてしまうなんて……(失礼)。
「そしてこちらのポーションは、飲むと一時的に精力が十倍になるフルボッキポーションじゃ!」
ちょっ、ネーミングっ!!
あとそれは今ここで飲んでみせなくていいからね!?
「村のホテルとこのポーションがあれば、繁殖力の低い儂らエルフでもあっという間に子だくさん間違いなしじゃ! 現に儂の妻も五十年ぶりに妊娠しましてな!」
「そ、それはおめでとうございます……」
フィリアさんに弟か妹が生まれるみたいだ。
「まだまだありますぞ! 魔物を寄せ付けなくなるポーションに、気配を完璧に消すポーション、身体が軟体動物並みに柔らかくなるポーション、悪臭を綺麗に消してくれるポーション……」
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌ててレオニヌスさんを遮る。
「い、一体どれだけ開発したの……?」
「ざっと三十種類以上じゃが」
三十種類以上っ!?
僕は思わず言った。
「ええと……もう少し自重してもらってもいいかな……?」
※お前が言うな案件
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