第151話 魔剣を作った

 おいらの名はドラン。

 元々は山脈の麓にある洞窟でひっそりと暮らしていたおいらたちドワーフだが、現在はここ荒野に築かれた人族の村で暮らしてる。


 この村での暮らしはとても快適だった。

 長年の洞窟暮らしで日の当たるところでの生活に落ち着かないおいらたちのため、村長はわざわざ地下で暮らせるように環境を整えてくれた。


 蛇や虫を食べるしかなかった洞窟暮らしのときと違い、この村では美味しいものがたくさん手に入る。

 水も使い放題で、毎日お風呂に入れるから身体もずっと清潔だった。


 何よりおいらたちを喜ばせたのは、酒だ。

 洞窟では滅多に飲めなかった酒を、この村では好きなだけ飲むことができる。

 しかも段違いに美味い酒だ。


 村長からは地下でしか飲んではダメだと厳命されているけれど、それで困ることはない。

 おいらたちは毎晩のように仲間内で酒を飲み交わしている。


 ……それにしても、気づいたらいつも裸になっているのはなぜだろう?


 そんなおいらたちは、決してこの村に寄生しているだけじゃない。

 村のためにちゃんと働いている。


 大好きな酒造りや、頑丈な身体を活かした肉体労働に従事しているドワーフも多いが、一番はやはり鍛冶だ。

 手先が器用なおいらたちは、この村で使われている武具の大半を生産している。


 洞窟暮らしの頃と違い、素材が手に入りやすいこの村では、質のいい武具を量産することができた。


 値段もお手頃なので、村に来た冒険者や商人たちが決まって驚愕している。


「なっ!? この剣がこんな値段で!? 冗談だろう!? 王都だと五倍以上はするぞ!」


 よほど驚いたのか、大声で叫んでいる客がいる。

 恰好からして冒険者だろう。


「一体どうなってるんだ、この街は……ただの一般人が俺と剣で互角に渡り合いやがるし、マッチョがゴロゴロいやがるし……」


 だが彼が手にしているものは所詮、量産品だ。

 基本的には『鍛冶』のギフトを持たない普通のドワーフたちが作っている。


 一方で、『鍛冶』のギフト持ちたちが製造している武具は、量産品など遥かに凌駕していた。

 それらは単に切れ味がいいとか、使い勝手がいいという、そういう話ではない。


 その大半は何らかの「スキル」が付与された特殊武具だ。

 例えば武具の耐久値がほとんど減らなくなる「不壊耐性」だったり、装備者の身体能力を向上させてくれる「身体強化」だったり。


 最近は競うようにして、強力な特殊武具を次々と作り出していた。


「む、何だ? 今日は随分と工房が騒がしいようだが……」


 その日、鍛冶工房にやってきたおいらは、いつもと違う工房内の雰囲気に違和感を覚えた。

 普段は皆、粛々と作業に勤しんでいるはずだが……。


「ドランっ! た、大変だべっ!」

「何があったべ?」

「じじ、実は……と、とにかく、見た方が早いべ! ドナ!」

「ん」


 呼ばれて前に出てきたのは、まだ十二歳の若いドワーフであるドナだ。

 つい最近、『兵器職人』というギフトを授かった彼女は、それ以来、今まで誰も考えつかなかったような画期的な武具を幾つも創り出している。


 例えば鞭状態に変形できる機能を持った特殊な剣だったり、本物の腕のように動かせて剣を振るうこともできる義腕だったり、衝撃を吸収することでダメージを大きく軽減させるぶよぶよの盾や鎧だったり。


 どうやらそんな彼女が、また新しい武具を開発したらしい。


「見た目は普通の剣にしか見えねぇべ?」


 だが彼女が手にしていたのは、一見するとただの剣だった。

 これも以前見た鞭のような剣のように変形したりするタイプだろうかと思っていると、


「えい」


 ピシャアアアアンッ!!


「~~っ!?」


 ドナが剣を軽く振った次の瞬間、轟音とともに雷光がおいらの目を焼いた。

 白くなった視界がようやく元に戻ったおいらが見たのは、焼け焦げて煙が上がっている床だ。


「な、な、な……今の雷撃は……その剣から……?」

「ん」

「ということは、まさか……」


 驚くおいらとは対照的に、ドナは淡々と言った。


「魔剣を作った」

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