第149話 工房が騒がしいようじゃが
儂の名はレオニヌス。
元はエルフの里の族長をしておったが、現在は荒野に築かれた村で暮らしておる。
ここでの生活は非常に快適じゃ。
大半を占める人族たちも友好的な方ばかりで、同胞たちもすっかり新たな生活に慣れ親しんでおる。
そんな儂らエルフじゃが、ルーク村長に頼まれて、我がエルフの里にその製法が伝わる秘薬、ポーションの製造に力を入れておる。
以前までは一本のポーションを製造するのに、多大な時間と労力が必要じゃった。
とりわけネックだったのが、素材となる薬草類じゃ。
その中には森でも滅多に採取できないものもあって、栽培しようにも上手くいかない。
お陰でどうしても作成できる量に限りがあったのじゃ。
それが今や、大量に生産できるようになっておる。
この村の畑で、必要な薬草類の栽培が成功したからじゃ。
エルフの里では長年にわたって試みられるも、一度たりとも上手くいかなかったため、正直まったく期待しておらんかった。
畑から希少な薬草が生えてきたのを見たとき、驚きのあまり屁をこいてしまったほどじゃ。
さらに製造にかかる時間も、かつてより大幅に短縮しておる。
村長が建てた工房内で作業を行うと、なぜか遥かに短い時間で製造できてしまうのじゃ。
儂らが作るポーションを求め、商人たちがこぞって買いにきておる。
村の薬屋でも販売しており、特に冒険者や旅人などに重宝されていた。
「ポーションが普通に売ってるううううううううっ!?」
よほど驚いたのか、大声で叫んでいる客がおるのう。
まだ若い人族の青年じゃが、ポーションの価値を知っておれば、あの驚き様も当然じゃろう。
ちなみに現在、村で製造しておるポーションには二種類ある。
一つは通常のポーション。
もう一つは、通常ポーションより遥かに高い効果を発揮するハイポーションじゃ。
ポーションでは治せないような重傷者をも治療できるハイポーションは、我がエルフの里でもその製法が辛うじて伝わるだけで、長年、作成することは不可能とされてきた。
じゃがこの村に来てから、安定して製造できるようになったのである。
ただし、今のところハイポーションの量産は難しく、販売はしておらぬ。
今後さらなる研究が進めば、いずれ量産できる日が来るかもしれぬがの。
そして儂らは、村の錬金術師や薬師たちと協力しながら、新たなポーションの開発も行っておる。
基本的にポーションは外傷を治療することはできても、病気や毒の状態異常などを治すことはできない。
じゃが現在開発中のキュアポーションは、病気や毒にも効果をもたらすもので、これが完成すれば儂のような老人でも健康に長生きできるようになるかもしれぬ。
すでにある程度の効果を持つ液体は作れるようになっており、後は品質を向上させるだけという段階にあった。
「む、何じゃ? 今日は随分と工房が騒がしいようじゃが……」
その日、ポーションの製造工房にやってきた儂は、いつもと違う工房内の雰囲気に違和感を覚えた。
普段は皆、粛々と製造や開発に勤しんでいるはずなのだが……。
「レオニヌス殿っ! た、た、大変ですっ!」
「何があったのじゃ?」
「じじ、実は……と、とにかく、こっちに!」
作業員に連れて行かれた先にあったのは、容器の中で淡い光を放ち続ける液体だった。
研究主任を務めるエルフが、それを実験用のネズミに振りかけようとしている。
「見たことのない液体じゃな? ポーションではないのか?」
「キュアポーションを開発する過程で、偶然できた液体です。これをご覧ください」
「なっ!?」
そのネズミは尻尾が根元の辺りから切れて無くなっていた。
だが謎の液体をかけるやいなや、見る見るうちに生えてきて、元通りの綺麗な尻尾になってしまったのだった。
「か、身体の欠損を治したじゃと……? そんな……こんな真似ができるとなると……まさか、その液体は……」
「はい。かの伝説の霊薬……エリクサーの可能性があります」
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