第148話 ほとんど効果ないはずなのに

「す、すごい! 痛くなくなった! さすがは先生だ。ありがとうございます!」




 強い腹痛を訴えていた患者が、すっかり元気になって出ていく。


 それを見送って、青年は苦笑する。




「うーん、僕の治癒なんて、ほとんど効果ないはずなのになぁ……」




 青年ミュオンは、アルベイル領北郡にあるこの小さな町で唯一の回復魔法の使い手として知られていた。




 だが彼は治癒士専門の学校で回復魔法を学びはしたものの、常に落ちこぼれ。


 三年かけても、せいぜい痛みを和らげる程度のことしかできず、お情けでギリギリ卒業させてもらったくらいである。




 それでも回復魔法を使える人間は非常に希少なのでこの町で開業し、薬の知識でどうにか誤魔化しながら営業を続けてきたのだ。




 それが、ほんの一か月ほど前から大きな異変が起こった。


 彼の行う治癒が、これまでとは打って変わって高い効果をもたらすようになったのである。




「僕の回復魔法のレベルが上がった……なんて様子はないし……。タイミングを考えると、ちょうどこの建物に来てからだよなぁ……」




 一か月前、今のこの真新しい診療所へと移ってきたのだ。


 なんでもこの診療所、いま話題の荒野の村の村長が建ててくれたらしい。




 もちろん実際に建てたのは大工だろう。


 ただ、一瞬にしてこの場所に出現したなどという噂が広がっていたり、町の大工たちの中にこの建物の建設に携わった者が誰一人いなかったりと、謎が多かった。




 最初この診療所に入った瞬間、不思議な力を感じた気はしたが……。




「いやいや、さすがに建物にそんな効果があるはずないしなぁ……」




 と、そのときだった。


 突然、診療所内に町の人が駆け込んでくる。




「せ、先生っ! バルの旦那が魔物にやられた! 酷い怪我だ! すぐにここに運び込まれてくる!」


「何だって!?」




 バルというのは、この町の衛兵の一人だった。


 近くに現れた魔物に対処したり、犯罪者を捕えたりと、この町の治安維持に大いに貢献してくれている。




 しばらくすると、血だらけの男が仲間の衛兵たちによって診療所へと運び込まれてきた。




「こ、これは……」


「アルミラージの変異種にやられたんだ! ただのアルミラージだと、油断しちまって……」




 腹部を貫通する大怪我だった。


 アルミラージの鋭い角をまともに受けてしまったらしい。




 ミュオンはすぐに回復魔法を使う。


 だが以前よりも効力を大幅に増した彼の魔法をもってしても、幾らか出血を抑えることしかできない。




 傷が深すぎるのだ。


 むしろまだ生きているのが不思議なほどで、体力に優れた衛兵だからこそ、辛うじて命を保っているのだろう。




 それでもこのままでは助からない。


 ミュオンはそこでハッとした。




「そ、そうだ……確か、ここに……」




 彼が慌てて戸棚から取り出したのは、謎の液体が入った小瓶だった。




「ポーション……幻の治療薬……どういうわけか、この診療所に最初から置かれていた……これが本物なら……」




 まだ実際に使ったことがないため、ミュオンにもこれが本物かどうかは分からない。


 だが一か八か、目の前の重傷人を助けるには、これに賭けるしかなかった。




 蓋を開け、強引に患者の口の中へ液体を流し込んだ。




 変化は劇的だった。




 見る見るうちに出血が収まり、それどころか刺創がゆっくりと塞がり始めたのだ。


 彼が通った専門学校の教師陣が使う回復魔法ですら、これだけの効力は発揮できないだろう。




「す、すごい……」








 ポーションのお陰で衛兵は一命を取り留め、それから数日後には完治したのだった。




「やはりこれは本物のポーション……。こんな貴重なものが、一体なぜこの小さな町に……」




 これほどの治療薬となると、どれだけの値が付けられるか、ミュオンには想像すらできない。


 しかも、まだ二本も残っている。




 診療所に置かれていたということは、噂のあの村と関係しているはず。


 そう推理したミュオンは、その真偽を確かめるべく荒野へと向かった。




 そこに村というより大都市があったことにも驚いたミュオンだが、それ以上に彼を驚愕させたのは――












「ポーションが普通に売ってるううううううううっ!?」






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すいません、更新忘れてました。。。

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